LOVE AXEL-shinoh

迷わずに明日を見つめていける


『さぁついに迎えたチャンピオンズリーグ第4回戦!いよいよ最後の四天王・ゴヨウの登場だーっ!』

 オーバと約束の戦いを終えた次の日、ついにヒロコはここまでたどり着いた。3人の四天王を倒し、シンオウ四天王最強と言われる男・ゴヨウとバトルフィールドで向かい合っている。チャンピオンズリーグ、四天王戦最終章だ。

「よくここまで勝ち上がってきました」

 ゴヨウはMCの紹介が終わったあと、読んでいた本をパタリと閉じながら言った。

「私、ゴヨウが使うポケモンはエスパータイプ。シンオウリーグを危なげなく勝ち上がり、これまでの四天王3人に勝った実力…どんなものなのか、早速拝見させてもらいましょう」

 チャッと1つめのモンスターボールがゴヨウの手に握られた。そんな動作1つでも、ヒロコの緊張が高まる。ゴヨウに勝てばいよいよチャンピオン・シロナと戦えるからだ。少しでも隙を作ったり、判断を間違えたりすればそこから終わっていく。
 
 だが、もうヒロコは迷わない。リョウ、キクノ、オーバにバトルを通して教えてもらったこと―自信を持って戦う―あの3試合の勝利が今の心の支えになっているからだ。絶対に負けない、ヒロコも1つめのボールを手に取り、ゴヨウよりも先に投げた。

「ムウマージ!」

 ヒロコの1体めはムウマージだ。「ほう、さっそくそう来ましたか」とゴヨウは舌を巻いた。

「ではこちらは…行け、バリヤード!」

 バリバリィ!とバリヤードがボールから飛び出した。純粋なエスパータイプのポケモンだ。

『し試合開始ぃ!』とMCはフライングに驚きながらも高らかに宣言した。

「ヒロコさん、お先にどうぞ」
「シャドーボール!」

 黒いシャドーボールがいきなりムウマージから発射された。ゴヨウはずいぶんと早急に攻めてくるのだなと思いながら、冷静にバリヤードに命令した。

「ひかりのかべ!」

 パントマイムのように見えない壁を作るバリヤード。それはパントマイムではなく本物の透明な壁が現れた。ひかりのかべにシャドーボールが吸収され、バリヤードにダメージはない。

「なるほど…」
「今度はこちらから行きます。10まんボルト!」
「ならこっちも10まんボルト!」

 2匹の体から高圧の電流が放たれた。わずかにムウマージの10まんボルトの流れが速かった。バリヤードの体に10まんボルトが走る。

「バリヤード!」

 10まんボルトが収まるとゴヨウは「大丈夫ですか?」と声をかけた。「バリバリ…」とバリヤードは答えた。ヒロコのポケモンの技は、テレビの中継で見るよりも威力があるように見える。やはり実際に戦って空気に触れないとわからないのか、とゴヨウはヒロコの出方を窺う。

「シャドーボール!」
「また同じ攻撃ですか、ひかりのかべ!」
「バリィ!」

 パントマイムで再びひかりのかべを出現させた。そして再びシャドーボールは吸収される。

「今だ!かげうち!」
「マージ!」

 「なにっ!?」と驚いた時にはもう遅かった。ムウマージは速攻で自分の影を伸ばしてバリヤードに攻撃していた。影に衝突されたバリヤードは吹っ飛ぶ。

「しっぺがえし!」

 砂煙を立てながら着地したバリヤードは、脚力を利用してすぐに踏み込み、ムウマージに急接近。あくタイプのエネルギーをためた右手でムウマージをビンタした。

「しまった!」

 しっぺがえしは、相手よりもあとに出したら威力が2倍になる技だ。あくタイプが苦手なムウマージにとって致命傷だ。

「ムウマージ!」
「とどめです!サイコキネシス!」
「シャドーボール!」
「!」

 こんな状況でも速攻で仕掛けてくるのかと、ヒロコの命令を聞いてすぐ攻撃態勢に入ったムウマージを見て言葉を呑んだ。そして、バリヤードのサイコキネシスがムウマージに届く前に、シャドーボールを喰らった。バリヤードの名を呼んだが、効果抜群の技にやられて、バリヤードは目を回して倒れた。

「バリヤード戦闘不能!ムウマージの勝ち!」

 まずは1体。危なかった。ムウマージはしっぺがえしのおかげで体力が風前の灯になっている。ムウマージの表情で一目瞭然だ。「危なかった…」ヒロコは思わず呟く。

「お疲れ様ですバリヤード。ゆっくり休んでください」

 そう言いながら、バリヤードをボールに戻した。
 なんて野性的なバトルをするのだろうと、ゴヨウはヒロコを見た。今までの戦いを見て、ずいぶんと性急なバトルをするんだと思っていたが、実際に戦ってみるとその勢いに飲まれそうになる。

(自分のインスピレーションを頼りに戦う…。なかなか面白い戦い方ですね。ですが、裏打ちされた作戦には太刀打ちできないでしょう)

「行け、エーフィ!」

 ゴヨウの2匹めはエーフィだ。エーフィの純粋なエスパータイプ。ボールから出てきたエーフィは、人間で言う「姿勢」がいい。しなやかな筋肉が優雅さだけでなく、強さも醸し出している。

「シグナルビーム!」

 額の赤い宝石がキラッと光り、七色の光線が発射した。対抗するためにヒロコはシャドーボールを命じたが、シグナルビームと衝突して相殺された。ドカンと小さな爆発が起こり、辺りが煙に包まれる。刹那、「まずい」と思ったが遅かった。

「エーフィ、かみつく!」

 そのしなやかな筋肉で、音を立てずムウマージにかみついた。体力が満タンなこともあり、気づかれず瞬時に接近できたのだ。

 煙が晴れると、ムウマージはエーフィの下敷きになっていた。かみつかれて最後の体力が尽き、目を回して倒れている。

「ムウマージ戦闘不能!エーフィの勝ち!」
「ありがとうムウマージ」

 赤い光がムウマージをボールに戻した。苦手タイプの技を2度もくらいながらも、よくがんばった。そう心の中で労いつつ、次のボールを手に取る。まだまだバトルは始まったばかりだ、大丈夫。と2つめのモンスターボールを胸の前でぎゅっと握った。

「さぁ、次はどのポケモンを出すのですか?」
「すぐに見せてあげるわよ!行け、エアームド!」

 宙に放り投げたボールから、エアームドが威勢よく鳴きながら現れた。

「なるほど。そのエアームドもエスパータイプに有利な技をいくつか持っていますね」
「あら、もしかして事前に調査済みですか?」
「フフ、当然です。あなたのような勢いで戦うタイプには、計算に裏打ちされた作戦が効果的ですからね。今までの四天王戦だけでなく、シンオウリーグ、ジム戦も拝見しました」
「なら、あたしのポケモンは全て知り尽くしている、と」
「その通りです」
「じゃあ望み通り見せてあげます!エアームド!つじぎり!」

 右手を思いっきり前に突き出して命令した。すると、エアームドは一鳴きして急降下、エーフィに接近した。

「リフレクター!」

 額の宝石が再び輝き、そこから透明な壁が出現した。当然、エアームドはその壁に激突する。エーフィのリフレクターvsエアームドだ。リフレクターを精製する力が徐々に大きくなり、エーフィの表情が強張ってくる。

「なんというパワーなのでしょう…!」
「そのまま突っ込み続けるんだ!」

 だからと言ってリフレクターをやめるよう命令すれば、たちまちエアームドのつじぎりの餌食だ。次はどうしようかと考えていると、リフレクターにピシピシと亀裂が入り始めた。

「なに!?」
「行けぇエアームド!!」

 声援を受けたエアームドが、ついにリフレクターを壊した。そしてすぐさま羽で切り裂き攻撃を叩き込んだ。つじぎりが命中し、エーフィは後ろに吹っ飛ぶ。

「エーフィ!」
「ブレイブバード!」

 エアームドはつじぎりの勢いをリセットするために急旋回した。そして体全体にエネルギーを溜めて、よろめくエーフィに突進。エーフィは再び吹っ飛ばされ、その勢いのまま壁に激突した。当然、エーフィはそのまま力なく地面に落ちた。

「エーフィ戦闘不能!エアームドの勝ち!」
「よーし!いいぞエアームド!」

 褒められて得意げになる一方で、ブレイブバードの反動ダメージがエアームドの体に走る。

 エーフィを労いながらボールに戻すゴヨウ。「まさかこんなことになるとは思いませんでしたね」と、エアームドがリフレクターを破壊したときを思い出しながら言った。

(どうやらただの勢いではなさそうですね。戦ってみて初めてわかりましたよ)

 さて、ここからどうしましょうか。四天王最強の男がそっと呟いた。



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