LOVE AXEL-shinoh

ピンチ乗り越え突き進む


「ミロカロス!」

 マニューラはこの炎の中では戦えないし、ロコンはまだまだあのボーマンダと戦えるレベルではない。ガバイトはタイプの相性がいいのだが、ヒロコの手は、れいとうビームやりゅうのはどうと言った、ドラゴンタイプに強い技を覚えているミロカロスのボールを選んでいた。炎の中心に、美しい鱗を纏うミロカロスがボールから飛び出した。ミロカロスなら、弱点を突かれずこちらが有利に戦える。

「フン、なかなか珍しいポケモンを持っているな」
「ハイドロポンプ!」

 Jの言葉にいちいち返していたらリズムを狂わされてしまう…。すかさず激流を放つミロカロスだが、「避けろ」とJが指示をしたら、ボーマンダがその巨体を素早く動かし、ハイドロポンプを避けられてしまった。

「かみなりのキバ!」

 その体勢のままミロカロスに向かって急降下してきた。口を大きく開け、キバに電流が流れ始める。

 ヒロコは、ボーマンダがミロカロスに近づくこの瞬間を待っていた。

「れいとうビーム!!」

 すぐさまミロカロスは冷気の光線をボーマンダに向けて放つ。だが、それさえもJが「避けろ」と命じたら素早く体勢を崩してまでも交わされてしまった。

「うそ…!?」

 ミロカロスは、特殊攻撃力や防御力に特化している。いくら素早さを重点的に置いて育てても限界があった。どのミロカロスよりも速いと思っていたが、やはりドラゴンタイプであるボーマンダには及ばない。雷のキバで咬み付かれたミロカロスの全身に電流が回り、苦しそうな声で鳴く。咬み付かれたままボーマンダは上昇し、このまま連れて行かれると思ったが、

「はかいこうせん」

 そうJが命令すると、ボーマンダはミロカロスを吐き捨てて、特殊攻撃最強の技を繰り出そう大きく息を吸う。

「ミロカロス!れいとうビーム!!」

 ヒロコの声で意識を取り戻し、空中で体勢を整えて再び冷気の光線を放つ。少し遅れてボーマンダが破壊光線を放ち、また2匹の中間で爆発した。

「また相撃ち!」
「……」

 しかし、はかいこうせんは攻撃したらしばらく動けなくなる弱点がある。衝撃の煙が引き、思った通りミロカロスを凝視するだけのボーマンダ。チャンスは今だ!

「れいとうビーム!」

 圧倒的な力の差の前では、弱点を突く作戦しか通用しない。ミロカロスはそろそろ限界らしく、体に最後の力を振り絞ってれいとうビームをボーマンダに放った。やはりはかいこうせんの反動で動けないボーマンダに、ミロカロスのれいとうビームがようやく命中した。

「くっ!」

 弱点4倍のれいとうビームを喰らって、一時はよろめいたボーマンダだが、すぐに立ち直った。

「…信じられない……」

 もしかしたら、シロナのガブリアスよりも強いのではないか、ヒロコの脳裏に「諦め」という言葉が浮かんできた。ムウマージのシャドーボールを喰らっても、弱点4倍のれいとうビームを喰らっても平気なボーマンダは、また口から黒い破壊光線をミロカロスに放ち、ついにミロカロスは限界を迎えた。

 力なく倒れるミロカロスの側に寄り、思わず抱きしめた。

「フン、所詮貴様はその程度か」

 冷酷非道なJの言葉は、まるで刃物のようにヒロコの心を突き刺した。

 まさか、敵であるポケモンハンターにそんなことを言われるとは思ってなかった。そして、そんなことを言われたのは、ポケモンGメンになってからはJが始めてだ。今までは、圧倒的な実力差でポケモンハンターを追い詰めて捉えていたのに、今は全く立場が逆だ。

 と言っても、ヒロコはもうポケモンGメンではないのだが。

「いや、まだだ!行け!ガバイト!」

 そうだ、ポケモンGメンではないのだから、思いっきり戦って思いっきり暴れよう。

 ミロカロスをボールに戻して、最後に繰り出したのはガバイトだ。ガバイトはボールから出ると、周りの炎に少しビックリしたが、目の前にいる巨大なボーマンダが視界に入ると、すぐさま戦闘態勢に入った。

「フン。なんだ、ガバイトか」

 相変わらず冷ややかな声で挑発するJ。ほぼノーダメージのボーマンダは唸り声をあげてガバイトの威嚇に応酬した。

 しかし、それは虚勢にすぎず、ボーマンダは再びはかいこうせんの反動で動けない。

「ドラゴンクロー!!」

 ガバイトは宙高く飛び上がり、ガブリアス直伝のドラゴンクローを繰り出した。力をフルに溜めたツメがボーマンダに命中し、よろけるボーマンダの上に乗るJは、今初めて体勢が崩れた。

「ちっ、なかなかやるな。だが、本物のドラゴンクローを見せてやろう。ボーマンダ、ドラゴンクロー!」

 ガアァァァッ!とボーマンダは怒りの形相でガバイトを恫喝した。あまりの迫力にガバイトは一瞬怯んでしまい、その後襲い来るボーマンダのドラゴンクローを避け切れず、その勢いで針葉樹林に叩きつけられ、大きな音と共にヒロコの目の前で墜落した。

「ガバイト!!」
「フン」

 落ちた衝撃で宙に煙が舞う。ヒロコは急いでガバイトのもとへ駆け寄った。煙が引き、辺りの様子が確認できたころには、ガバイトはピクリとも動く気配がなかった。

「ガバイト!しっかりして!ガバイト!!」

 体を揺らして必死に名前を呼ぶも、ガバイトには聞こえていないようだった。

「そんな……!」
「そこまでのようだな」

 名前を呼びながら、ガバイトを抱きかかえるヒロコの目の前に、ボーマンダが着陸した。Jはカラナクシの入ったガラスケースをボーマンダに預け、ゆっくりとヒロコに近寄って来た。

 左手の特殊な機械―ポケモンや物質をプラスチック化させる機械を掲げながら、1歩ずつ。

「く…っ!」
「Gメンリーダーと言えども、やはりこんなものか。もう1匹いるみたいだが、私は無駄な争いをしたくないのでな。まぁ、育ちの遅いガバイトを切り札にするとは…呆れて笑いしか出ないよ、フフフフ…」

 チャッと左手の機械の銃口をヒロコに向けた。

「このままプラスチック化されたら、いずれ炎に溶けて跡形もなく消える。残念だよGメンヒロコ。貴様とはもっとレベルの高い戦いをしたかったのだが…」
「…!」

 敵わない。Jのボーマンダは、シロナのガブリアス以上の未知の強さを秘めていた。ヒロコ程度の力で勝てるはずがなかったのだ。

 これまで精一杯がんばった、精一杯抵抗した、精一杯生きた。悔いはない。

 目を閉じ、最期の時を待った。

「さらばだ」

 突然、ヒロコに抱きかかえられたガバイトの体が光り始めた。

「何!?」
「…これは…!?」

 光はヒロコの腕から離れ、段々と形をどこかで見た記憶のあるシルエットに変えていく。体躯は一回り大きくなり、腕のヒレやツメが伸び、足と腕にするどい棘が生えてくる。そう、ガバイトがガブリアスに進化したのだ。

「ガブリアス……!」

 ついに、待ち焦がれていたガブリアスに進化したのだ。

 光の衣が剥がれると、シロナのガブリアス同様の固い紫色の衣を身に纏うガブリアスが現れた。切れ長の目はさらに鋭くなり、ガアァァァァッ!と雄叫びをあげればキバが増え鋭利になっていた。

「ちっ、こんな時に!」

 Jは銃口をヒロコからガブリアスに向けたが、ガブリアスに向いたころにはそこにガブリアスの姿は無く、ボーマンダに向かって上空からエネルギーを纏って急降下していた。

「!」
「あれはドラゴンダイブ!」

 ソノオタウン郊外で、シロナのガブリアスから教えてもらったドラゴンダイブだ。ガバイトの時は未完成に終わってくやしがっていたが、進化してついに完成した。パワーもスピードもシロナのガブリアスに引けを取らない。

 まさかガブリアスに進化するとは思わず、しかも圧倒的なスピードで攻撃されては、さすがのJやボーマンダも防御のしようがない。

「ボォワアァァァァッ!!」

 ドラゴンダイブが炸裂し、ボーマンダは苦悶の表情を浮かべながら苦しそうに唸る。衝突の衝撃でカラナクシの入ったガラスケースが宙を舞い、ボーマンダの元から離れた。

「なにぃ!?」
「マニューラ!受け取れ!!」

 ヒロコはマニューラのボールを力を振り絞って投げ、ボールから出て来たマニューラはそのままガラスケースをキャッチした。

「ちっ!」

 Jは次にマニューラに標準を合わせた。が、どこからともなく聞こえるヘリの音に気付き、逃げ場がないと気付くと、ボーマンダを無言でボールに引っ込めた。

「まさか私の嫌味で進化するとはな」
「いや、ガブリアスはあたしを守るために進化した。決してオマエのおかげではない」
「フッ。その威勢のよさ、なかなか気に入ったぞGメンヒロコ。いや、今はGメンではないみたいだな」
「なぜわかった?」
「丸腰の私を捕らえようとしないからだ。どんな事情があるかは知らないが、いずれにせよ、貴様も私ももうこれ以上戦えない」

―だが、次に会った時は…必ず貴様を消す。

 Jはそう言い残しながら閃光弾を地面に叩きつけた。
 
 その光は、ヒロコやガブリアス、マニューラやヘリに乗るジュンサーの目を眩ました。その場にいる全員が眩しすぎて目を閉じざるを得ない。ヒロコが次に目を開けた時にはもう、Jの姿はなかった。



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