まっしろな世界だった。
真っ白な世界で、真っ白な服に身を包んで、俺のだけがそこに居た。
360度見渡しても、終りは見えなくて。

俺は、俺には何もなかった。


「ひかる」


透き通るような、俺を呼ぶ声に振り向くとそこに彼女はいた。
ずっと、ずっと俺がほしくて堪らなかったもの。
彼女は俺と同じように真っ白な服に身を包んで、そこに居た。
俺に、ずっと笑いかけてくれている。ここには何も無い、誰も居ない、俺らだけの空間。

今なら言える気がした。


「すきや、」


伝えられなかった言葉。


「うん」

「ずっと、ずっとすきや」

「知ってるよ」


「わたしも」


すき、


そう唇が動いただけで言葉にはならなかった。


「あいにきたんだよ」


泣きそうな顔で彼女はそう呟いた。


「あなたにはまだ、残ってる」

「え、」


指差す俺はいつのまにか着慣れたテニス部のジャージに身を包んでいた。

「だいじょうぶ、だね」


妙な違和感を感じて視線を落すと、俺も、彼女もゆっくりと白に融けて始めていた。

もう離れたくなくて、後悔したくなくて手を伸ばしたけれど、その手が、彼女をつかむことは無かった。
瞬きをして目の前に現れた世界は、ひどく晴れ渡っていた。

一度目は手を伸ばすことすら出来なかった。
二度目は手を伸ばしてもつかむ事が出来なかった。

瞳には涙があふれていた、拭っても拭っても止まることはなくて、それが、彼女はもうこの世に居ないのだということを俺に知らしめた。





ない、
110528
(あいに、いきたんだよ)
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