今日は4月14日。俺がこの世に生を受けた日。


ぴるるるる。

「はい」

『もしもし』

「さき」

『最近連絡取れなくてごめんね』

「ええよ、大学忙しいんやろ?」

#咲希#は大学のために東京へ出た。それが去年の話や。最初こそは毎日連絡取ってたんが、今じゃ1週間に1回、電話は1ヶ月に1回。そんなんやから、自然消滅しても可笑しくないんすか、て財前に言われてしもた。でも、俺はめっちゃさきが好きやから、東京で頑張っとるさきに迷惑かけんようにしとっただけで、ホンマはメールは数分おきで、毎日朝昼晩電話したい。でも、しつこいオトコやて嫌われたくないから。

今日電話かかってきたのは、奇跡やと思う。忙しゅうて誕生日なんか忘れられててもしゃーない思うねん。



『お誕生日、おめでとう。』

だが携帯の向こうから聞こえてきたのは、奇跡の言葉だった。

「今、なんて…?」

『だから、おめでとうって』
『あたし彼氏置いて東京行っちゃうし、ぜんっぜん連絡も出来ない悪い彼女だけど、すごく、蔵ノ介のことが大好きなの。』

変わってなかった。こうやって唐突に、けれどいつも俺が欲しい言葉をくれるんや。

「俺かて、さきんことめっちゃ好きや。」

だから、俺もきちんとそれに応えたる。

『…ありがと。あたし、蔵ノ介に出会えてすごく嬉しい。』

声だけなのに、表情まで想像出来てまう。きっと、ほんのり頬を染めて、はにかんでるんやろうな。あかん、俺まで顔が熱なってきた。

「あかん…。いつも反則すぎるやろ。」

「『蔵、顔真っ赤』」

「なんで、そんなんわか…る…、え?」

会いたくて会いたくて仕方のなかった彼女が目の前にいた。

「来ちゃっ…っ…!」

言い終える前に俺はさきを抱きしめとった。ここが外だとかそういうのなしに本能が、理性とかを押しやって、瞼に、頬に、鼻に、唇にキスを落とした。唇が離れて目が合った瞬間、空っぽだった俺の心が、満たされていくのを感じた。
ぽろ、と俺の目から涙が零れた。さきはすこしびっくりしたような顔をしたが、にこりと笑うと優しく俺の涙をぬぐって、もう一度、今度はさきからキスをした。

「…生まれてきてくれて、私と出会ってくれて、ありがとう。」

「財前に見られてたら、文句言われるんやろな…」

「あ、そのことなん「先輩ら、道のど真ん中でそゆことやらんでくれます?」

また、驚きの出来事や。そこには、謙也、財前、千歳、小春、ユウジ、小石川、金ちゃん、師範。みんなバラバラの進路に進んだから、全員揃うんは何年ぶりやろか。

「お、おおおまえら!ろ、ろろろ路チューとかなにしてんねん!!」
「謙也さん、路チューとか古いっすわ」
「仕方なかね、謙也はこーゆうことに疎いばい。」
「いやーん、相変わらずさきちゃんか・わ・ゆ・い☆」
「小春にはかなわんがな!!」
「元気そうで何よりや。」
「なー、東京の食いもん、仰山買うてきてくれたんか!?」
「金太郎はん、あんまり暴れんといてください、」

恥ずかしかったのか、さきは俺から離れて、小春に手を引かれるまま皆の輪の中に入ってった。その光景が、あの夏を思い出させた。ああ、俺もあの輪の中に居ったんやな。

「白石っ」
「部長」
「しらいし」
「蔵りーん」
「白石ぃ!!」
「白石」
「しーらーいーしー!!」
「白石はん」

ああ。俺は。

「蔵ノ介、」


「誕生日おめでとう」


今日、この日に生まれてきてよかった。





幸せということ。
110414
(白石Happy Birthday!!)
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