「光」

聞きなれた、俺を呼ぶ声。でも何度聞いても飽きひんねん。

「光は、やさしいねぇ」

時々この人は何の脈絡も無く会話を始める。昼休み、昨日発売されたテニス雑誌を読んでいた俺は、振り返ることもなく、なにがや、と呟き返す。たぶん自分の頭の中でいろいろと考えていて、そこの途中からぽろりと言葉になってこぼれ出ているんだと、思う。(これは俺の推測やけど。もし俺もそんなんやったら年中この人のこと考えとるし、キャラ崩壊やわ、ほんま。)


「ねね、光、この間素敵なお店見つけたの。今日部活終わったら行かない?」

「めんどくさいっスわ」

「えー、ケチ」


俺が一蹴するように答えると、口を尖らしてノートの端にがしがしと落書きを始めた。こういうときは年上に見えへんわ、と俺が言うと、まっくろくろすけを書き始めていたさき先輩がぐるんと振り返る。


「ねぇ、それほめてる?けなしてる?」

「さぁ、どっちやろな」


答えながら俺は、先輩にバレないようにクスリと笑った。きっとまた唇を尖らせて、じとっとこっちを睨んでいるに違いない。そういう表情が、年上に見えないと思う。本当に、いろいろな先輩が、先輩の中にぎゅっと詰まってるみたいで、おもろい。もっと知りたい思っとる反面、これ以上先輩を知ってしもたら俺はもう先輩なしでは生きて行かれへんようになる気がする。なんかそういうのって悔しいやんか。


「ひーかる」


そろそろかまったろと振り返ると、頬をつねられた。白い歯を惜しげもなく見せて、悪戯が成功したような子どもの笑顔。もっと知りたくて、もっと見たい。どんどん惹きこまれてるのが、ようわかる。


「…週末」

「ん?」

「部活無いんで付き合ったりますわ」

「…やっぱり、光はやさしいね」


そう言って優しく笑うもんやから俺も笑って先輩の頬を優しくつねってやった。いつから俺はこんな風に笑えるようになったんやろ。先輩の、笑い声が俺の耳をくすぐっていた。





俺のきな人
20110318
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