こめかみを押さえ、重い体をどうにか起こした。頭がガンガンする。サイドテーブルに手を伸ばした。確かさきが水差しにたっぷりと水を入れといてくれたはず。

白石が眠りに落ちる前に彼女が座っていた椅子は、寂しげにベッドの傍に立っている。

指先がガラスにぶつかる。妙に冷たく感じられて、まだ熱がひいてへんのかとため息をもらした。
コンコン、と控えめなノックが聞こえて、はいと俺は返事をする。ドアが開いて、冷気がすっと入ってくるのを感じた。


「具合、どう?」


ささやき声と、区切りをつけた独特な話し方。暗い廊下で長い髪が揺れたのが見えた。


「さき?」


ぼんやりとゆがむ視界でさきを見つめる。彼女にしては戸惑いがちに首をかしげたようで、影が少し揺れた。


「入っても、いい?」


おん、と喉から声を絞り出すと、さきは部屋に入って静かにドアを閉めた。
あらためて俺が水を飲もうとコップに手を伸ばすと、さきが慌てて近寄り、手に持っていたトレイを置いて水差しを手にとった。静かな部屋に、水音が響いた。


「おかゆ、作ってきたの」
「…食欲、ないねん」
「だーめ」


小さな鍋のふたを開けると、白い湯気がただよった。俺が水を一息に飲み込むと、さきはそのグラスを受け取り、そのかわりに鍋からよそったおかゆのお椀を差し出した。ゆっくりとスプーンを手にとり、口に運ぶ。


「あつっ…」
「気をつけて」


スプーンから口を離し、俺ははお椀を膝の上に下ろした。茶色の瞳は力なくお椀を見つめている。さきはそっとため息を吐く。


「蔵」
「・・・」
「食べたくないの?」
「…おん」


俺がが額に手をあててうなだれたのでさきは悪戯っぽく笑った。するりと細い指を伸ばして、お椀を受け取った。


「せっかく作ってくれたんに、すまんな…」
「いいのよ。さっぱりしたのなら、大丈夫かな?あとでリンゴ、むいてあげる」
「・・・おおきに」
「いいよ、横になって」


力なく体を横たえた俺に毛布をそっとかけてくれた。さきの手が額に触れると、とても冷たく感じられた。トレイに随分残ったおかゆのお椀をのせて、さきは静かに立ち上がる。


「おやすみ、ね?」


俺のの閉じかけていた瞳に、微かに微笑んださきが映った。





目覚めた時にまた君がいますように
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