きみのパパが知らないいくつかのこと #1


(*こちらの続きものの続きです。いろいろ妄想ねつ造すみません)



「あ、ねえ!」

――ねえ。

名指しで呼ばれた訳じゃない。でも、呼ばれたと思った。他の誰でもなく、わたしのことを。

「はい?」

振り返って、顔を確認。すると、同い年くらいの男の子が少し離れたところに立っていた。
茶色の髪の毛。男の子にしては、少し長めの襟足に整った顔立ち。女の子に人気がありそう。背が高い。この辺りでは見たことがない制服。どこか遠くの学校なのかも。でも、その顔には見覚えがあった。
男の子が少し気まずそうに話しかけてくる。

「その、久しぶり……って、覚えてる?」

人差し指の先で頬を掻く仕草。わたしは頷きを返す。去年のクリスマスのことが脳裏に浮かぶ。

「覚えてるよ。瑛くんのお友達だよね?」

すると男の子は、ぱちぱちと何度か瞬きを繰り返して、面食らったような顔をした。……あれ? 何か変なこと言っちゃったのかな?

「うん、まあ、そう。友達みたいなもの、かな?」

何とも歯切れの悪い言い方。ふ、と小さく笑って「久しぶりだね」と男の子が言う。

「そうだね。一年ぶりだね」

去年のクリスマス。学校のクリスマス・パーティの帰り道、瑛くんと一緒にいる彼と遭遇。いろいろあって、家に帰る前に瑛くんから珊瑚礁でコーヒーをごちそうしてもらったんだ。そのとき一緒に過ごした。ほんの少しの時間だったけど、覚えてる。瑛くんが素のままに同年代の男の子と話す姿が、何だか新鮮で。
男の子は少ししんみりとした調子で笑う。

「……うん、そうだね。一年ぶり」

それから思いついた様に、「メリークリスマス」と言ってくれる。

「うん、メリークリスマス!」
「これからパーティー? おめかししてるね?」
「えっ? あ、うん、そう」

今年も学校主催のクリスマスパーティーがある。しかも今年は一泊二日のスキー合宿もある。荷物を抱えて、コートの下にはパーティー用のドレス。何だか、ちぐはぐな気がして、少し気恥ずかしい。男の子が上から下、下から上に眺めてくるから更に気恥かしい。男の子が、うんうん、と頷く。

「相変わらず綺麗だね」
「え? ……えっ?!」
「いやだから、相変わらず綺麗だなあって」

しれっと繰り返す男の子に対し、わたしばかり慌てている。

「そ、そうじゃなくて! 聞こえてなかった訳じゃなくて!」
「そうなの?」

きょとんとした顔。無自覚なのかなあ、もう。

「うーん……でも、お世辞でも嬉しいよ。ありがとう」

言うと、「お世辞なんかじゃないのに」と唇を尖らせる男の子。そんな表情をすると、誰かさんとよく似た表情になる。少し、微笑ましい。

「純粋に客観的な話、去年よりずっと綺麗になったよ。去年も綺麗だったけど、尚更」
「…………」
「頑張ったんだね」

そう言って、にこり、と笑う。誰かさんの優等生スマイルにも似た、それはそれは綺麗な笑顔。……わたしより、よっぽど君の方が綺麗だよって言ってあげたい。……何だか、頬が熱い。ぱたぱたと手のひらで顔の前を仰ぐ。
男の子は全くマイペースな調子で、わたしの手元の荷物を指さす。

「それ、クリスマスプレゼント?」

男の子が指さした紙袋。その中には木製の恐竜クラフト。選んだ時に思い浮かべた相手は今回の合宿には参加しないらしい。仕方ないよね、と思うけど、やっぱり残念。

「うん、そうだよ」と紙袋を掲げて見せる。「そっか」と男の子が頷く。

「……その、楽しんできて」
「うん、ありがとう」

二人分の白い息がふわふわと宙を舞う。季節は冬。もうそろそろ夕方。だんだんと空気も冷え込んできている。目の前の彼は制服を着てるだけで、コートやマフラーといった防寒具は一切なし。ここに至ってようやく、寒くないのかな?と心配になった。実際に口に出して言う。


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