言えなかったこと、言うつもりもないこと、きみが好きだってこと。


あかりが天性の無自覚ぶりを発揮して、そうしてそのことは自覚もせず、質問をして寄越す。ふと思いついた様に屈託もなく笑顔のまま。
それに対する忠告は、あまり考えなしに話題を振るな、ということ。けれど、あかりのそういう屈託のなさとか気楽さに惹かれていたのも事実で、まあ、何と言うか、始末に負えない話。

「恋してる?」だって。

笑って冗談にまぎれさせてかわせば、それで済む話。軽いデジャブ。そういえば前も同じようなことを訊かれた。つくづく懲りない。こんな危うい綱渡りみたいな関係を続ける俺もおまえも。

あかりには深い意図なんてものは、おそらくなくて、ただもう世間話かあるいは恋バナとか、そういうふざけた、気楽な話題を振っただけの話。それも前と同じ。けれど今回は、ごっこ遊びじみたバーのマスターやマダムのフリをすることさえ出来そうにない。

急に黙り込んだ俺を気遣ってか、あかりが「ゴメン」と謝ってくる。そうやって謝るくらいなら、最初から聞かなけりゃいい話。
閉じた瞼を持ち上げると、心配げにこっちを覗きこむあかりの顔があって、そうすると不思議なことに相手を詰りたい気分はだいぶ和らいだ。
何にも気づいていない目。自分が投げかけた言葉が相手にとってどんな爆弾か気づきもしない。爆弾に爆弾で返したら、双方傷を負って始末に負えない。そんなのは御免こうむる。でも、聞かずにいられなかった。

「してるって言ったら、どうする?」

例えば、俺が好きなのはおまえだよって。子供の頃からずっとそうなんだって、そう正直に打ち明けたら。そうしたら、何かが変わるんだろうか。例えば、別のシナリオに切り替わるみたいに。次のお話に移り変わるみたいに、俺たちの関係も変わるんだろうか。分かってる。みんな、言えるわけのない話。だから、やっぱり曖昧なまま、話を区切る。

「あんまり、乱暴なこと聞くなよ」

この関係を壊しかねない爆弾抱えた質問とか。この関係はあんまり不均衡で不安定で、少しでもバランスを崩せば壊れてしまいかねない。
一番恐れていることはそれだった。正直に告白して、今の関係さえ壊れて、もう会えなくなること。『友達』という関係にせよ、例え、それ以外の何かだとしても、あかりが俺にとって大事な存在なことに変わりはない。手放したくない。会えなくなること、それだけは御免だったから、だから今日も、きっとこれからも、一番伝えたい言葉は決して口にしない。最後まで自分の胸に仕舞い込んで、一番伝えたい相手にだけは伝えないでおくことにする。




[title by にやり様]
[6600 hit thanks / 2011.04.17]
*親友モードで好き状態の佐伯くん。
*こまさんへ捧げます。リクエストありがとうございました……!

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