4月1日に寄せて


あかりが「瑛くん、大好き」と屈託なく言って寄越すから内心、穏やかじゃない。それでも条件反射的に嬉しくなって顔がニヤけそうになる。ニヤけそうになった頬の筋肉を引きとめるのは、あかりの台詞を素直に喜べない屈折した心のせいだ。だって、よりによってこの日に言うのかよ? そんな風に思ってしまう。

最近すっかり定番になった休日デートの帰り道、あかりはいつも通り、ツンツンベタベタ攻撃を繰り出して甘えてくる。取りあえず今は『我慢だ……俺……』と何度も繰り返してあかりの攻撃に耐える。見事耐えきって、この迂闊者を自宅前まで送り届けたら、今日はどうやって注意してやろう、どんな風に言って聞かせたら言うこと聞いてくれるのかな……とか、そんなことを考えて気を逸らしている。ちなみに今、あかりの指が耳元を掠めて、うっかりヘンな声が出そうになった。今の良いかも、とか、断じてそんなことは思っていない。往来で感じてたまるものか。またひとつ、ため息が口をついて出た。

「だめだよ、瑛くん。ため息つくと幸せが逃げるんだよ?」
「誰のせいだよ……ったく」

もう一度、ため息をついたら口を指先でくすぐられた。毎度おなじみ口元へのイタズラ。すっかり不意打ちで、必要以上にうろたえてしまう。

「ばっ、バカ! おまえ……!」

あかりがしてやったりと言う風にニヤリ、と笑う。

「隙あり」
「ああもう……」

こっちの気を知らないボンヤリは、引き続き身も心もとろけそうな笑顔と声で甘えてくる。たまったもんじゃない。頑張れ俺の平常心。指先で頬を突こうとして来るあかりの手をやんわりと、どける。

「ほら、人に見られるから……」
「平気だよ?」
「俺が平気じゃないんだ」
「瑛くんの照れ屋さん」

ツンと鼻先を突つかれる。プラス上目づかい。語尾にハートマークがついていそうな甘ったるい言い方。何このコンボ攻撃。視界がクラクラしてきた。うっかりあかりの方に傾げそうになる体を意思の力でとどめる。

「でも、瑛くんのそんなところも好きだよ?」

また言った。『好き』だって。何だってまた、今日に限ってこんな風なのかなって思ってしまう。春先の陽気に温められたせいか、夕方だというのに、まだ結構暑い。もしかすると、いや、もしかしなくても気温のせいだけじゃないのかもしれないけど。
好きだよ好きだよ好きだよ……うっかり、『俺も』なんて、口を滑らしたりはしない。この日、口にした言葉は全部ウソになってしまいそうだったので。こいつの前でウソをつくのはまっぴらだったので。



四月馬鹿に寄せて



2011/04/01
*The☆四月バカップル。
*誰か誰か、佐伯くんにエイプリルフールのウソついて良い時間は午前様までって教えたげて下さい。
*現役2年目設定でお読み下され(この年は4月1日がサンデー)

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