一番のキミ #6


こちらに背を向けたまま固まる佐伯くんの背中に声をかける。

「……たまたま、通りかかったんだ?」
「……ああ、そうだ」
「えっと、屋上に?」
「…………ウルサイ」

わたしは苦笑してしまう。相変わらず、誤魔化すのがヘタだなあ、と思って。

「何だよ、何笑ってんだ」

佐伯くんが振り向いた。眉間に皺を寄せて。

「笑ってないもん」
「……そうだな」と佐伯くん。

「なあ、何で泣いてたんだよ」

今度はわたしが黙り込む番だった。

「それは、その……」

なんて言えばいいんだろう? 泣いてしまった直接の理由は、一緒に登校する二人の姿を見てしまったせい。でも、それだけが原因じゃなくて、二人を見て、わたしじゃ佐伯くんの役に立てないんじゃないかって思い知ってしまったせいだ。でも、そんなことうまく説明できる気がしない。どうしよう、何て言おう……。ぐるぐる思案していたら、佐伯くんが先に口を開いてくれた。

「その…………もしさ、昨日言ったことが理由だったら、謝る」
「えっ?」
――昨日言ったこと?
「バイトのとき。……わかるだろ? おまえ、あのあとから元気なくなってたから。もし、俺が言い過ぎて落ち込んでたなら、ごめん。俺も言い過ぎた」
「佐伯くん……」

昨日のアルバイトのとき、『おめでとう』って言ったら、佐伯くんに『ウンザリだ』って言われてしまったんだった。でも、わたしがあのとき落ち込んだ理由は別のことだった。

「ううん、佐伯くんのせいじゃないよ。自分の問題なの」
「自分の問題?」
「昨日、言ったよね。プリンセスに選ばれた女の子がすごくステキだって」
「ああ、そうだっけ?」
「そうなの。でね、佐伯くんとプリンセスの子がお似合いだって、みんな言ってたんだ」
「はあ?」
「ウワサになってるよ? はね学のプリンスとプリンセスが実は付き合ってるじゃないか〜って」
「何だよそれ……」

佐伯くんが呆れ顔でぼやいた。

「……昨日ね、そのウワサを佐伯くんに教えようと思ったの」

ぽつぽつ、言葉を続ける。

「でも、言おうとしたら言えなくなっちゃった。こう、胸の辺りがヘンに痛くなって……何でだろう?」
「……いや、俺に聞かれても」
「そうだよね」

ややあって、佐伯くんが口を開いた。

「……もしかして、妬いた、とか?」
「……そうなのかなあ?」
「だから何で疑問形なんだよ」
「だって、よく分かんないんだもん」

佐伯くんが大げさにため息をついた。ぽんぽんとわたしの頭を叩くように撫でる。まるで子供扱いといった風。

「……だよな。お子様じゃ、まだそういうの分かんないか」
「何よ、その言い方!」

憤慨して声を上げたら、佐伯くんがおかしそうに笑った。……何だか、久々に佐伯くんのこんな笑顔を見たような気がする。

「まあ、でも、ごめんな? ヘンな心配させた」
「別に心配とかじゃ、ないし……」
「俺とあの人は付き合ってなんかいないよ」
「ほんとう?」
「ホント。大体さ、あの人、ちゃんと彼氏いるんだぞ?」
「えっ?」

――彼氏?! プリンセスに?

「佐伯くん、振られちゃったんだ……」
「違うだろっ」
「痛っ」

全く油断してたから、思いのほか痛い。頭をさすっていると、佐伯くんが言葉を続ける。

「今朝も相談受けてたんだ。彼氏さんの誕生日プレゼントで悩んでるらしい」
「誕生日プレゼント?」
「コーヒーが好きな彼氏なんだって」
「そうなんだ……」
「俺も普段なら、そういう相談に乗ったりしないんだけど……まあ、コーヒーの話題は別だな。つい、アドバイスしてた」
「……珊瑚礁のバリスタだしね?」
「まあな」

――なんだ、そうだったんだ……。

「コーヒー好きの彼氏さんかあ……。どんな人なの? やっぱりカッコイイ人?」
「いや……白クマ系、らしい」
「し、白クマ?」
「本人が言ってたんだよ。白クマみたいで和むし安心するって」
「白クマかあ……」

彼氏さんの説明としてはどうなんだろう、と思うけど……でも、そうだなあ。

「優しそうな彼氏さんなのかな?」
「そうなんだろ。きっと」
「何だか、意外な組み合わせだね」
「そうでもないんじゃないか?」
「え?」
「ほら、よく聞くだろ、美人は美男に惹かれない、とか、そういう話」
「そうなの?」
「そうなの。逆もまた然り」
「逆?」
「そう、逆」

少し考えてみる。

「……佐伯くんも?」
「……秘密」

片眉を少し上げて、幾分照れたような顔で言う佐伯くん。……ひみつ、かあ。何だか腑に落ちないものが残ったけど、心配ごともなくなったし、まあ、いいかなって思う。

「……なあ」
「なあに?」
「おまえさ、人気投票、誰に入れた訳?」
「……佐伯くんは?」

佐伯くんは言葉に詰まり、さっきと同じセリフを繰り返した。

「……秘密」

運動も勉強も出来て、ルックスもいい“はね学のプリンス”。でも、わたしの前では、ちょっと口が悪くて、子どもっぽい一面を見せる佐伯くん。
そんな彼に対するわたしの返答はひとつだけだ。自分だけ聞きだそうなんて、甘いよ佐伯くん。

「じゃあ、わたしも、秘密」

――本当は、言うまでもないこと。って言い換えても良いんだけど。けれど、それはまだ秘密だ。繰り返すようだけれども。




いつだってキミが、僕のわたしの一番。
2011.03.29
*ぽんさんへ捧げます。
*【すれ違う二人/瑛くんorあかりちゃんに恋人疑惑/喧嘩して仲直りして、そんでラブラブ】
*最後ラブラブ度が足りなくて申し訳ありません;;; とっても楽しいリクエストありがとうございました! 

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