一番のキミ #4


登校してきたわたしの顔を見た瞬間、西本さんが声を上げる。

「うわ〜、ひどい顔やなあ」
「西本さん、ひどいよ……」

わたしは力なく抗議した。西本さんは胸の前で両手を合わせて謝った。

「あ、ごめんな? でも、どうしたん? 顔色めっちゃ悪いで」
「うーん……昨日ね、あんまりよく眠れなくて」
「何か悩みであるん?」
「う、ううん……」

――悩み。
西本さんの一言に、一瞬、佐伯くんの顔が頭に浮かぶ。それをかぶりを振って追い払う。
何だか、うまくいかないなあ、と思ってしまう。ただ一言、『おめでとう』って言いたかっただけなのに、どうして気まずくなっちゃうんだろう。どうして、すぐ、ケンカしてるみたいになっちゃうんだろう?

急に廊下の外が騒がしくなった。キャーキャーと女の子たちの黄色い歓声が響く。

「何やろ?」

わたしと西本さんは顔を見合わせる。廊下に出て、周りの女の子に西本さんが訊ねる。

「なあなあ、どうしたん?」

訊かれた女の子は「あっ、あのね……」と目をキラキラと輝かせながら答えた。まるで好奇心に輝いているような瞳。

「今ね、はね学のプリンスとプリンセスが一緒に登校してたの!」

「はあ!?」

西本さんが絶句して、わたしの方を振り向いた。

「あかり……」

困り顔でわたしの名前を呼ぶ西本さん。わたしの目は窓の外、くだんの王子様、お姫様の登校風景に釘付けだ。やわらかく微笑むプリンセス。その傍らには、優等生スマイルの佐伯くん。二人の周りにキラキラとした何がが見えた気がした。あまりにもお似合いの二人。本当に、お似合いだなあって、そう、見えた。

「ちょ、あかり、しっかりし!」

西本さんが慌ててわたしの肩を叩く。わたしは笑顔を浮かべて西本さんを見る。

「大丈夫だよ、西本さん」

スマイル、スマイル、笑顔で言わなきゃ。西本さんに心配をかけたらいけない。

「大丈夫」

そう言ってから、自分の声が震えていることに気づいた。あれ、なんで? すると、頬を何か、冷たい滴が伝った。

「……あれ?」

ぽろぽろ、滴が……ううん、ちがう、これは涙だ。涙が止まらない。

「あ、あれ? おかしいな? ヘンなの……」

頬を落ちる涙をぬぐって、西本さんに笑顔を向ける。西本さんはわたしの顔を見て、自分の顔を歪めて、猛然とかぶりを振った。

「ヘンやない!」
「西本さん?」
「ヘンやない! 全然ヘンやない! 行こ、あかり!」

西本さんから手首を掴まれ、ぐい、と腕を引かれる。

「に、西本さん……どこへ行くの?」
「あかりが落ち着いて泣けるとこや!」
「え? そ、そんな、いいよ……」
「よくあらへん!」

ずんずん、先を歩く西本さんに手を引かれて歩く。周りの生徒たちが“何ごと?”という風に目を見張ってわたしたちを見る。けれど、西本さんはそんな視線は全然気にしてないみたいで、毅然と前を見て歩き続ける。居たたまれないのは、涙顔のわたしだ。容赦なく降り注がれる視線から逃れるようにして視線を後ろに向けた。

(……あっ)

一瞬、人垣の中に佐伯くんの顔が見えた。その隣りにはプリンセス。
目が合った瞬間、佐伯くんが驚いて目を見張ったように見えた。優等生の仮面が取れていた。
けれど、こっちに気づいたのかどうかは分からない。王子様とお姫様の姿は、一瞬でまた、人の壁に隠れてしまったから。


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