チョコレイト戦争 #4


『あかりなら、さっき階段の踊り場にいた』という西本はるひの情報を信じて教えられた場所に向かった。あの辺りなら、ついさっき通った場所だ。なのに見覚えがないというのはおかしくないか? 一応、こっちだって探しながら歩いている訳で……。まさか見落とした? そういう可能性だってない訳じゃない。女子に追われながらの捜索でもあるし。でも、それよりも――、


「まさか隠れてるとかじゃないだろうな、あいつ……」





「いや、まさかそれはねーだろ」と否定するのはハリーだ。

「でも、西本さん、さっきハリーを探してたよ?」
「だからってそういう用事とは限らねーだろ? 大体、西本『首洗って待ってろ』って言ってたんだろ?」
「うん」
「ああ、言ってたな……」
「ぜってェ、良い用事じゃねーだろ、それ! 」

ハリーが天を仰ぐ仕草をする。ハリーにしては弱気というか、おびえてる? 何だろう、何か身に覚えがあるのかな?

実を言うと、西本さんと別れたすぐ後にハリーがここを通りかかった。そうして、秘密にしてて、と言われたのに話してしまった。だって、あまりにもタイミングがよかったもので。まるで隠れてたみたいに……。

「ハリー」
「なんだよ」
「何か心当たりとかあるの? あるいは身に覚えとか」
「…………ねーよ!」
「間があったな」
「うん、あったね」
「ねーし!」

ハリーはいつもどおり髪の毛をツンツンさせている。いつもと違うのは手にギターじゃなく、チョコを抱えていること。ハリーもきっともてるんだなあ、そんなことを実感したり。

「チョコいっぱいだね?」
「まーな!」とハリーは得意げに胸を張る。

たくさんのチョコを見ていたら今日一日、きっと引っ張りだこな人の顔が脳裏に浮かんだ。そうして、抱えたチョコを見つめていたら思ってしまった。――みんなはちゃんと渡せて、いいなあ、うらやましいなあ。渡せないようなものを自分で作っておいて、ひどく勝手なことを思っていた。

「つーか、おまえはいいの?」
「え?」
「渡す奴、いるんだろ? それ」

それ、と指さされたのは失敗手作りチョコだ。渡す勇気も自信も決心もつかないのに、大事に持ってしまっている。

「でも……」
「でも、じゃねーだろ? どーすんだよ、もう放課後じゃねぇか。佐伯帰っちまうぞ?」
「な、なんで、佐伯くんの名前が!?」
「……なんでって、違うのか?」
「え、いや、ああああの、違うというか、違わ、ない、けど……」
「……はっ」
「くっ……」

すると吹きだされてしまった。しかも二方向から。

「志波くんまで笑うなんてひどいよ……」
「ああ、悪い……」
「いや、天パリすぎだろ、おまえ。志波は悪くねぇよ」
「だって……」
「つーかマジな話、渡すなら今だろ? いいのか?」

ハリーの真っ直ぐな目に見つめられて、言葉が詰まった。渡さなくてもいいのか、そう自問してみる。もちろん、渡したい。でも、こんなのじゃダメだ……と思う方が強い。

「ダメだよ……」
「は? なんで?」
「だって、酷い出来なんだもん」
「そんなの関係ねぇだろ」
「そんなことない。だって……」
「だって、なんだよ?」
「佐伯くん、すっごくお菓子作りが上手なんだもん……!」

悲痛な面持ちで叫んだら、「は?」と言う声が返ってきた。二方向から。いや、三方向? ええと、一つ多いような……。

おそるおそる、振りかえってみる。

「さ、佐伯、くん?」

志波くんの向こう側、廊下と踊り場の境目に佐伯くんが立っていた。


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2011.02.14
(*志波くんがエアーマンのようになっていてごめんなさい。残り1ページ!)

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