チョコレイト戦争 #1


――どこもかしこも甘ったるくて、ウンザリする。





空気まで甘い気がしてくる2月某日。男も女も打算や思惑に頭を支配されて、朝から学校中が落ち着かない。それは俺だって例外じゃない。例年のごとく押し寄せるチョコレートにプレゼント手紙告白エトセトラエトセトラ……の中にあいつの姿は見当たらない。周りの目を気にして隠れてるのか、そうかそうか余計な気を回してくれてる訳か、あいつにしては上出来だ――そうやって、自分を納得させる言い訳もいよいよ放課後が近くなってくると流石に不安が上回って効果がない。

――どこに行ってんだあいつ……。

朝から一度も姿が見えないというのもおかしい。まさか避けてるのか。しかし、よりによって今日に限って?


「何やってんだ、あいつ……」


ぼやきながら、数日前のことを思い出していた。バイト中で、あかりと一緒に街に買い出しに行った帰り道のことだ。2月に入って以来、街の商店街はバレンタイン一色になっていて、イヤでも意識してしまう。隣りを歩く茶色の頭が、いつの間にか隣りを歩いていないのに気づいて、後ろを振り返った。

色とりどりの飾り付けをされたチョコが並ぶ、店先の窓。立ち止まって、何を思っているのかボンヤリとした顔でウィンドウディスプレイを見つめているあかり。ボーっとしている茶色い頭のつむじを標的にしてチョップしてやった。

「痛っ!」
「ボーっとしてんな」

恨めしげに見上げる茶色い頭から顔を逸らしながら言った。

「早く店に戻るぞ」
「……はーい」

背中ごしに不満げな声が聞こえて、しぶしぶながらついてきているのを把握する。歩きながら、去年のバレンタインを思い出していた。あかりが用意した手作りチョコ。……今年はどうするつもりなんだろう。意識したら、途端に頬のあたりが熱くなってきた。顔が赤くなっている気がしてしばらく振り返れなかった。





で、肝心の当日。朝から例の茶色い頭は見当たらない。……まさかあの日のチョップが地雷だったのか? とか、そういうことを気にし始めている自分に嫌気がさす。チャイムが鳴ったら、もう放課後だ。すでに手荷物いっぱいになっているチョコ。帰りもまだもらうかもしれない。だから、あまり学校には長居したくない。かといって、すぐに帰ったら帰ったできっと気にするんだろう。だからイヤなんだ、こういうイベントは。机の脇に掛けた手提げ(ロッカーに収まらなかった分)から漂ってくる甘い匂いとウジウジした自分にウンザリしてため息をついた。




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2011.02.10
(*バレンタイン前哨戦カウントダウン企画、チョコレイト戦争。例によって続いちゃいます)


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