ばいとのじかん #1


四月になって始めた、週に二日のアルバイト。笑顔が優しいマスターとぶっきらぼうなバリスタさんがいる、コーヒーがおいしい海辺の喫茶店。まだ慣れないことも多いけど、少しずつ手順や勝手も分かってきた。出来ることも増えたと思う。最初の頃に比べたら。
それでも、もちろんまだまだ全然至らなくて失敗することも多い。未だに転んだりお皿を割ってしまって、厳しい先輩から心底呆れた顔をされてしまう。バックヤードで注意されることも多い。
でも、頑張りたいと思う。頑張って、出来ないことも出来るようになっていけたらいいなと思う。





料理を運ぶとき、佐伯くんは片手に3つプレートを乗せながら歩く。手首に2つ乗せ、手に1つ持って左手に3皿。右手も2つ、場合によっては3皿。計5、6皿。すごくプロっぽくて憧れてしまう。かっこいい。
わたしも持てるお皿を増やしてみたいと思った。試しに、左手に2つ。3つはちょっと無理そうだったので。
佐伯くんの持ち方を頭に思い描きつつ、手に1つ持って、手首にプレートを1つ乗せる。

――あ、出来そうかも。よーし、このまま……。

「ちょっと待て」

佐伯くんに呼びとめられた。「なに?」振り返って向かい合う。

「…………」

何か言いたげな顔をした佐伯くんは上から下へわたしを眺めおろし「危なっかしい。1つ置いていくよーに」と、左手首に置いたお皿を取り上げてしまう。思わず取られてしまったお皿を恨めしげに見つめた。佐伯くんが澄ました顔で言う。

「返事は?」
「はい!」

フロアに足を踏み出しながら思った。

――そっか、危なっかしいかあ。でも、それはそうかも。

それでもいいんだ、これから少しずつやれるようになっていけばいいんだから。そう自分に言い聞かせて気持ちを切り替えた。それから、とびっきりの笑顔でテーブルに向かった。


「おまたせいたしました!」



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