どんなこどもにも秘密ってやつがあるのさ #5


「っくしゅん!」

くしゃみの音がした。振り返るとあかりが寒そうに肩をさすっている。私服のときによく着てる膝丈のコートを羽織っているとはいえ、その下は薄っぺらいパーティードレス。マフラーとかストールといった防寒具もなし。寒いのも当たり前だ。

「寒いね」
「寒いねーさすが冬」

二人して鼻の頭を赤くして、どこかで聞いたような会話をしている。よく似た親子…………そんな文句が頭に浮かんで、いや、信じてる訳じゃないぞと首を振った。

「ホント寒そうだね。上着、貸そうか?」
「えっ?」

貸そうかも何も、おまえ、制服のくせに何言ってんだと思ってしまう。躊躇なくブレザーを脱ごうとしてる背中に向けて声をかけた。

「ヤメロ。見てるこっちが寒い」
「でも」
「でもじゃない」
「そうだよ。わたしは平気だから」
「あかり」
「なに? 瑛くん」
「そもそもおまえが、そんな薄着でほっつき歩いてるから悪いんだ」
「薄着じゃないよ! ちゃんとコート着てるんだから!」
「コートだけで真冬の海を凌げると思ってんのか。震えてんのが丸わかりだ未熟者」
「……うう」

分が悪いというのは分かるのか口をつぐむあかり。着ていた上着を脱いで肩にかけてやる。

「……瑛くん?」
「おまえなんか、それ羽織ってろ。そんで着膨れしてろ」
「……ありがとう」
「……別に」

というか、寒い。しかし寒いのに、顔が熱いのは何でだ。後ろ側からくすくすと笑う声が聞こえてきた。

「……優しいね」
「……ウルサイ」

とにかく、寒くて仕方がないので急ぐことにした。……こぶつき二人というよくわからん組み合わせのまま。





「はあ、温まる〜」

湯気の立つコーヒーカップを手のひらで包み込むようにして、そんな台詞を言うあかり。……オッサンかおまえは。

「それ飲んで温まったら帰れよ。送ってやるから」
「はーい」

お気楽な声。女友達たちと一緒に帰ったはずだったあかりは何故か一人でふらふらと海辺の道を歩いていて、偶然俺たちと合流したらしい。なんで一人で歩いてたんだと聞くと「みんなと逆方向だったし、それに少し一人歩きたかったんだ」という。……危機感がなさすぎる。取りあえず、あかりの方は後で送っていくとして、問題はもう一人だ。

「コーヒーがそんなに珍しいか」

さっきからずっとコーヒーカップを見つめて動きもしない不審者に声をかける。

「え? いや、珍しい、とかじゃないけど……」

珍しく歯切れの悪い返事。

「コーヒー嫌いだったか」
「いや!」

思いのほか強い否定。

「嫌いじゃないよ。ただ、ちょっとビックリしたんだ。……いい香りだね。おいしそうだ」

そんなことを言って、こっちを見て微笑む。悪い気はしないが、しかし、気恥かしい。

「ね。いい香りだよね。瑛くんのコーヒー」とあかり。また、恥かしげもなくそんなことを言う。

「おいしいよ。わたしが太鼓判おすから!」
「太鼓判って、おまえ……」
「そっか……仲良いんだね、二人とも」
「は?!」

今のやり取りでどうしてそうなるんだ。

「仲がよさそうで、よかった」

そう言って、そいつはカップを口に運ぶ。

「本当だ。おいしい」
「でしょ!」
「ちょっと待て、さっきの一言が聞き捨てならん」
「豆がいいのかな、それとも腕?」
「どっちもじゃないかな? そうだ、今度お店が開いてるときに来てみて? コーヒーもだけど、ケーキもとってもおいしいんだよ。あ、甘いものは平気?」
「おい、おまえら……」
「むしろ大好き」
「ちょっと……」
「良かった! きっと気に入るよ。マスターのケーキ、本当においしいんだから」
「……話聞けよ!!」

えっ、どうしたの? みたいな視線が二つ。どうしたのじゃないよ。よく似た天然二人が揃うと何だか疲れて仕方がない。




(※気苦労症おとうさん気質サエキテル。次回でラスト!)
2011.01.24

[back]
[works]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -