どんなこどもにも秘密ってやつがあるのさ #4


「あれっ? 瑛くん?」


そうして、こめかみを押さえていると、聞き覚えのある声が後ろっ側から聞こえてくるわけだ。ああ、もう……。

振り返ると、やっぱり奴だった。

「あ、やっぱり瑛くんだ!」

――あかり。
厄介事に厄介事が重なってきて、壮絶に面倒くさい。状況が飲み込めていないあかりはいつものお気楽極まりない笑顔で駆け寄ってくる。その能天気そうな頭にチョップをかましたい。しかし、こんなヘンテコな状況をあらかじめあかりが把握出来ているわけがないので、この場合チョップは理不尽だろう。ってか、おまえ、女友達と一緒に帰ったんじゃないのか。なんでいるんだ、こんなとこに。しかも一人で。……危ないじゃないか。諸々の言いたいことがこみ上げてきて、結局手が滑った。

「痛っ!」
「わっ!」
「『あ、やっぱり瑛くんだ〜』じゃないよ! なんで一人で帰ってんだ、おまえ!」
「痛いよ、瑛くん! もう、いっつも理不尽なんだから……」

わざとらしく頭をさすっている。言っとくがあれだぞ? 今日は大分手加減してるし、言いたくないが、寒さのせいでスナップが甘くなった。不覚。

「そうだよ、女の子に酷いんじゃない、君?」
「ウルサイ。こいつに『女の子』とか、柄じゃないだろ」
「ひどいよ、瑛くん!」
「そうだよ。それは本当にひどい」
「ね、ひどいよね? いつもこうなんだよ、瑛くんってば」
「いつも?! いつもこうなの? うわあ……それはひどい。ほとんど最悪だ」
「ね!」
「おまえら、何意気投合してんの……」

そこでようやくあかりがハッとしたように相手を見る。

「あっ、ごめんなさい……」

ぺこりと頭を下げたあかりに、自称・あかりの息子は「そんな、謝らないで」とか何とか言って、手を振っている。微笑みまで浮かべ。やっぱり、どこかで見たような顔をしている。壮絶に胡散臭い笑顔とか、特に……。

「えっと、瑛くんのお友達さんですか?」
「え? いや……」
「あああ、そう! 友達! こいつ俺の友達! ってか、知り合い! なっ?」

『いや……』とか言うから、まさか本当のことを(信憑性はないとはいえ)話すつもりじゃないだろうなと思って、慌てて和気あいあいと会話してる間に割って入った。立てなくてもいい波風ってものが世の中にはある。長ずるにつれ、習得した経験則。
『なっ?』と全力で相槌を促そうとする俺を奴は一瞥、ややあって、くすりと笑い「うん、まあ、そうだね」とあかりに笑いかける。……ものすごくバカにされた気がするのは多分気のせいじゃない。

「そうなんだ……わたし、海野あかり。瑛くんとは同じ学校で家が近所なの」
「そっか……あかりさん」
「うん?」
「……会えてよかった」
「……え?」

まただ。目を細めて、まるで懐かしむような、何か眩しげなものでも見てるような表情。
今度はあかりが目の前にいるものの、こいつのその表情は、さっきあかりが消えた路地をぼんやり見つめていた時と同じもので、どこか釈然としないものが胸にわだかまる。

――何だって、こいつはこんな目つきであかりを見つめているんだ? 感傷? だとしたって、行き過ぎじゃないか。

あかりも妙にしんみりとした空気に面食らっている。「え? あ、あれ?」おお、戸惑ってる、戸惑ってる。なかなか新鮮な反応だが、無防備な顔をさらしすぎ、といった感があって、愉快さよりも不愉快さが上回る。まあ……要するに俺以外の奴の前でそんな顔してんなという幼い嫉妬だ。見も蓋もない言い方をすれば。

「おい……」
「なんてね」

また絶妙なタイミングではぐらかす、自称・息子。

「よろしくね、あかりさん」

そうして、また胡散臭いスマイル。あかりは何度か瞬きを繰り返して、何事かを納得したのか、大きく頷き笑いかける。

「うん、よろしくね!」

――何が『よろしく』なのか。てか、何だ、この疎外感。

12月の寒空の下、何故かそこだけ春の陽気が漂っていると錯覚しそうになる和気あいあいとした空気にあてられ、深くため息をついた。白い息が海と空を飲み込む暗闇に溶けて消える。流石、冬。寒い、ものすごく。何ていうか、心身ともに。



(※へ続きます。あともう少し)
2011.01.16

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