どんなこどもにも秘密ってやつがあるのさ #3


波も空も真っ黒で境界線がなくなった海沿いの道を歩きながら、そいつは解説をして寄越す。

曰く――、

「あの人はね、俺の母親なんだ。“これから母親になる人”って言った方が正確かな? 今はまだ高校生だもんね。今の俺と変わんない年かあ……なんか、感慨深いね」

話の突拍子のなさにも関わらず、当人は至ってあっけらかんとして、すっとぼけた印象。そんなところはあいつにそっくりとも言えなくもない。しかし、

「そんなわけあるか」

思ったままのことを口に出した。取りあえず、否定するだろう。ふつう。こんな場合。
すると、そいつはきょとんとした顔でこっちを見返してきた。

「信じてくれないの?」
「信じるわけないだろ」

いきなりこんな突拍子も信憑性もない話をされて、「はいそうですか」と信じられるわけがない。というか、未来から来た……なんて話をふつうに話しだすあたり正気じゃない。頭がおかしいんじゃないか。

「まあ、それはそうだよね」

あっさりと、そいつは頷きを返してきた。

「……は?」
「俺もそう思うよ。いきなりこんな話をされて信じる方がおかしい」
「…………」
「安心したよ。『はい、そうですか』って素直に納得されたら、どうしようかなあって思ってたから」
「ああ、そう……」

妙な奴だなあ、とは初対面の頃から思っていた。しかし改めて、妙な奴だ。不思議なもので、こんなに妙な奴だというのにどういう訳か、憎めない気もしなくもない。

「さて」

白い息を吐きながら、そいつは辺りを見回した。

「これからどうするかな……」

そんなことを呟いている。
そういえばもう12月で、ちなみにクリスマスイブで、しかも夜。つまり、ものすごく寒い。時期的に寒いのは妥当。心身ともに、というのも多分、妥当な話。何だってまた、イブの夜に男二人で寒空の中さみしく途方に暮れなきゃならんのだ。

隣りを歩く相手は前の日に見た学校の制服を着ているだけで、明らかに寒そうだ。

「……おまえさ」
「ん?」
「寒くないの?」
「寒いよ。流石、冬。冷えるね」
「いや、『冷えるね』じゃなくて……」

本当かどうかはともかく、こいつはさっき『未来から来た』とか、そういうふざけたことをほざいてた。ギリギリアウトな線ながら、百歩譲って(百歩じゃ、どう贔屓目に見ても足りないくらい信憑性が薄い話だとはいえ)、その話を信じるとして……まあ、来たからには戻るんだろう。
だが、しかし……。
思うところがあったので、さっきから気になっていることを口に出して訊いてみる。

「これからどうするんだ、おまえ」
「うん。それが悩みどころなんだ」

あっさり頷いて、首を傾げている。いかにも『困っているんだ』という風に。

「もう目的も果たせたから戻りたいんだけど、困ったことに、戻り方が分からない」
「…………」

――なんてきついオチだ。

白い息ごと、ついたため息が真っ暗な夜の空に消えていく。こめかみがキンキンと痛むのは、多分おそらくゼッタイ寒さだけのせいじゃない。



(※まだへ続きます)
2011.01.16

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