どんなこどもにも秘密ってやつがあるのさ #2


クリスマスパーティー当日。
あかりの手には人魚のキーホルダーが乗っていて、一方、俺が手にしたのはガラスの置時計だったりする。偶然にしては出来過ぎで、誰か、何者かによって仕組まれたような気がしなくもない。

人魚のキーホルダーはあかりに渡したかったもので、というか、あかり以外の手に渡るなんて考えられないくらい、あいつに向けたプレゼントで、だから、パーティーが終わって、帰ろうとしているあかりのカバンにそのキーホルダーがつけられているのを見たとき、どうしようもなくうれしくなった。

「あ、瑛くん」
「おまえ、それ……」
「え? あ、うん。早速つけちゃった」

そう言って、照れたようにカバンを掲げ持って見せた。人魚のキーホルダーが街灯に照らされてきらきらと揺れる。

「大切にするね」とあかりは言った。その言葉とあかりの笑顔を頭の中で反芻する。「俺も……」と返す。

「俺も、おまえからのプレゼント、大事にするから」

「うん……」と小さな声で頷いたあかりの鼻の頭と耳たぶと目尻から頬の高い部分の辺りが、寒さのせいか、心なしか赤い。しかし、いつものようにからかう気にはなれなかった。自分も似たようなことになっている自覚はあったので。そして俺の場合、寒さのせいだけで赤くなっている訳じゃないことも自覚していたので。

送っていこうか、と聞くとあかりは女友達たちと一緒に帰るらしい。見慣れた面々と連れだって帰っていく後ろ姿を見送った。
路地を曲がる途中、あかりは一度振り向いて、こっちに手を振った。子供じゃないんだから、そんな風に大げさに手を振るんじゃない、とか、小言を言いたくなるような仕草。苦笑しながら、分かったから、と手を振り返した。

あかりたちの姿が消えてから、視線を横方向に動かした。明らかに怪しげな茂みに向かって声をかける。

「出てきたらどうだ」
「……ばれた?」
「ばればれだよ」
「そっか」

がさがさという擬音と一緒に、昨日の昼間に尾行していた男がが出てきた。こうなってくると、本当に本格的に不審者だ。
そんなの、昨日の昼間から分かっていたことだったのに、どういう訳か、騒ぎ立てる気が湧かないのは何でだ。

「プレゼント、さ」

まとわりついた葉っぱとか草の類を払い落しながら、そいつは口を開いた。

「うまく交換できたみたいだね」

意味深すぎる言葉を吐く相手の顔を見る。まさか、と思いながら訊く。

「おまえの仕業とかじゃないのか?」
「まさか。俺にはそんな力はないよ」

けれどあっさり否定される。それはまあ、そうかと納得する。

「そうかよ」
「あったら良かったんだろうけど。……ねえ、ひとつお願いしていいかな?」
「何」
「そのプレゼント、見せてもらえないかな?」
「何で」
「何ででも」

思いのほか、真剣な表情だった。こいつが初めて見せる表情。そのせいか、頷いてしまった。

「見せるだけなら、いいけど……」
「うん、見るだけ」

包みを開く。箱のふたを取る。ガラスの置き時計が覗く。街頭の灯りにキラキラと光る。

「ああ……」

そいつはため息をついた。ようやくめぐり会えた、みたいな表情で。言っておくが、相手はガラス時計だ。どう贔屓目に見ても感動的な再会には見えない。

「本当にクリスマスプレゼントだったんだ……」

そうして呟くようにして、言った。いい加減、こいつが誰なのかはっきりさせたくなってきた。

「あのさ……」
「ん?」
「おまえさ、あいつの知り合い、とか?」
「え、なんでそうなるの?」
「だって、そうじゃなきゃ、説明がつかないだろ。いきなりあいつからのプレゼント見て、ああいうこと言ったりしてさ」
「ああ、そういうこと」

ひとつ頷いて、改めてこっちを見つめ返す。随分整った顔、という印象。どこかで見覚えがあるような気もしなくもない顔。しかし、どこでだ。

「うーん、知り合いって言ったら、微妙に違うかな。あの人はまだ俺のことを知らないし。それにしても、綺麗だったね」
「?」
「綺麗だったんだなあ……」

そいつはあかりが消えた方に目を向けたまま、そんなことを呟いている。鼻の頭を赤くして白い息を吐いて、目を細めるようにして、まるでまだ、あかりの後ろ姿を見つめているみたいな、そんな顔で。

視線に気づいたのか、そいつはこっちを見た。

「あ、そういうんじゃないから、安心してよ」と顔の前で手のひらを振る。

「そういうって何だよ」
「そういうって言ったらそういうことしかないでしょ」
「あのなあ。人をからかうのもいい加減にしないと……」
「あ、怒った」

そうして、子どもがはやし立てるような調子で言うものだから、もう、口が滑った。

「怒るよ、怒るに決まってるだろ! あいつのことなんだから!」
「…………」
「あっ……」

――言ってしまった。
まずい、と思って相手の顔を見ると、相手は呆気にとられたような顔をして、それから、ニヤニヤと笑いだした。

「うん。そうだよね。うん、それはそうだ。あの人のことだもん。それは怒るよね」
「……おまえに何が分かる」
「分かるよ。だって、他人ごとじゃないから」
「何のことだ?」
「昨日言ったよね?」

そいつは一歩後ろに引いてから言った。街灯の灯りから外れて、顔に影がかかる。

「“それを言ったら、多分、ビックリする”だろうからって」

それは言ったかもしれない。だとしても、いい加減そろそろ明かしてほしいとも思う。

「あのさ。実は、未来から来た……って言ったら、ビックリする?」
「…………は?」


――本当に、何の話だ、これは。



(※に続きます)
2011.01.14

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