甘えたがりの夜


*一年前のクリスマスに上げたこちらのお話の後日談です。一年越しだと……ざわ……。




携帯の画像一覧を開く。フォルダを開いて目的の画像を表示する。

胸元に白いポンポン飾りがついた赤いワンピース、いわゆるサンタコスに身を包んだあかりの写真が携帯画面を占領する。
誰か、おそらくは同じバイト仲間の誰かから撮られたのか、ご丁寧にピースサインなんかをしている。あーあー浮かれきった顔して、これあれだろ、仲間内のテンションで浮かれきって、その場のノリで写真まで撮って、あとで写真を見返して恥ずかしくなるやつだろ……あかりの場合はそんなの気にしないかな。結構こういうノリだって好きそうだし、この衣装だって、まあ、似合ってるし。

「瑛くん、コーヒー淹れたよ〜……って、わああ!」
「何だよ騒がしい」

コーヒーを運びがてら偶然携帯の画像の目に入ったのか、あかりは慌てている。

「け、消して!」

そう言って人の携帯を奪おうとするから腕を上げて携帯を遠ざける。すると、ぴょんぴょんと跳ねるようにして携帯を取ろうとする。顔が真っ赤だ。……前言撤回。あかりもこの手のノリは恥ずかしいらしい。似合ってるのに。

「ヤダ」
「わ、わたしだってヤダもん!」
「俺の携帯なんだから、どうするかは俺の自由だろ。諦めろ」
「うう〜……瑛くんのオニ悪魔オヤジ……」
「おまえそれ自分の彼氏に向かって投げる台詞じゃないぞ」
「だってそれ、からかう材料とか、そういうのでしょ?」

顔を真っ赤にして、しかもまだ携帯を奪うのを諦めていないのか、腕を上げて体を伸ばして、つまりは必然的に上目遣い……この姿勢は大分かなり目に毒。ため息をつく。

「……おまえ、全然わかってない」
「え?」

意表を突かれたのか、無防備な表情をして見せたあかりを抱きすくめる。

「馬鹿にするとか、からかうとか、そんな理由じゃない。純粋に見てたいから取っておくんだ」

クリスマス前も、当日だってお互いにアルバイトが忙しくて会えなかった。そんな中、あかりがバイト中にサンタコスをしていると聞かされて気が気じゃなくなった。

写真を送ってくれるといったのに、翌日の昼間になってもあかりからの連絡はないし、どうなってるんだよ、まあ忘れてるんだろうなああのボンヤリ!と向かったバイト先で、制服に着替えてバイトモードに切り替える間際に(そう、よりによって、間際に、だ)約束のサンタコス画像が送られてきた。おかげでバイト直前にすっかり蛇の生殺しの心境だった。狙ってやってるんだったら、本当に罪深い。

それを消せ、なんて、いくら本人の願いでも聞きたくない。

抱きすくめられたまま、「馬鹿にしないなら、いいけど」とあかりが呟く。しばらくして、腕の中で「ふふっ」というくすくす笑いが漏れる。

「何だよ?」

「瑛くんって案外甘えたさんだったんだね」とあかりが感慨深げに呟く。

「何だと……」

というか、どういう意味だ。笑いの名残を声ににじませたままあかりは続ける。

「だって、高校生の頃は違ったでしょう? バカップルみたいなのは嫌がってた気がするよ」
「それはまあ……」

あの頃の自分を顧みるに、否定のしようはない。確かに人前で必要以上にイチャイチャするのは気恥ずかしかった。
でもあれは照れが勝っていたのと、あの頃はまだあかりの気持ちがわからなくて「いいのかな」と不安に思う部分が強かったせいだ。このまま流されるように進んでいいのかな、とか、そういう。
今はそういう葛藤は薄い。
それにあの頃だって今とそう変わらない。隙あらば好きな子にああしたいとか、こうしたいとか、そういうことばかり考えていた。

「瑛くん?」

急に黙り込んだせいか、あかりが顔を上げてこちらの様子を伺う気配がした。返事の代わりに無防備な首筋に軽く噛みついた。

「ひゃあ!」
「ひゃあっておまえ……」
「て、瑛くんがいきなり噛みついたりするからでしょ!」

噛まれた首筋を押さえながらあかりは抗議する。真っ赤になっていて、可愛いと言えなくもない。悲鳴には色気の欠片もなかったけど、それもまあ、らしいっちゃらしいし。

そんなあれこれと、さっきの質問の返答も含めて返す。

「おまえが煽るせいだろ」
「あ、煽る!?」

そんなことしてない!と抗議を続ける唇を唇でふさいでやった。ずっとこんな風に触れたいと思っていた。触れられるようになるまで、随分時間がかかったんだ。今更前みたいには戻れない。あかりが淹れてくれたコーヒーは後で飲むか、代わりのを淹れ直してやろうと思う。





2013.12.25
*メリクリです〜!
*何とか格好つけようとヨイショしたのですが、要するに「可愛い彼女のサンタコス写真超ほしい見たい消したくない」と主張し瑛くんで、そのう……いくらシリアルに真顔で言っても格好つかなくて、佐伯さん本当にすまない、すみませんでした……デイジーのこと大好き過ぎる瑛くんがラブくて大好きだよ……。
*瑛くんは高校の頃、甘え下手で甘えられなかった分、存分にあの子に甘えてほしいものです。

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