7/19(二年目)


(※素敵瑛誕企画「チーパッパバースデイさまに提出させて頂きました」)
(※在学中二年目の佐伯くんとデイジーさんです)
(※遅ればせながら、チーパッパハッピーバースデイ!)




「やりたいヤツだけでチーパッパやってればいいんだ」


というのは、いつかの佐伯くんの台詞だ。ひどい言い方だなあと思ったけど、佐伯くんのその意見には頷く部分もあったので、実際に行動に移してみることにした。


「疲れた……」


アルバイト終了後の佐伯くんはとてもお疲れモードだ。いつにもまして、という言葉がくっつくほどに。


「佐伯くん、お疲れ様」


カウンターにつっぷしそうになっている佐伯くんにお疲れ様を言う。


「ああ、お疲れだ……」


ため息と一緒に佐伯くんがぼやく。その様子を見て、モテモテも大変だなあ、としみじみと思った。


7月19日、今日は佐伯くんのお誕生日。誕生日の佐伯くんは忙しい。
学校でも人気者で忙しいけど、アルバイト先の珊瑚礁ではもっと忙しい。
何でも、お客さんに誕生日を知られているらしくて、誕生日はいつもお客さんからケーキをおごられまくるのだとか。


わたしなんかは、ケーキをたくさん食べられて、とてもうれしいなあ、と思ってしまうのだけど、誕生日を目前にしてため息をついていた佐伯くんは、そうは思えないみたい。
物には限度があるんだと言っていたけど、そのときは、そんなものなのかなあ、と何となく頷いていた。
今日、実際の光景を目の当たりにして、佐伯くんがぼやいていた理由が少し分かった気がした。確かに、とても、すごく“おごられまくっている”。


お客さんから「おめでとう!」の言葉と一緒にケーキを差し出されるたび、佐伯くんは笑顔で「ありがとうございます」とケーキを受け取っている。いくら好きなケーキでも、あんなにたくさんはちょっと……ううん、かなり大変かも。


――モテモテも大変だ。


誕生日が憂鬱な理由を聞かせてもらったときに思い浮かんだ台詞を、改めてもう一度唱える。モテモテも大変だ。だけど、これも受け取ってもらいたいなあ。


――やりたいヤツだけでチーパッパやってればいいんだ。


というのは、いつかの佐伯くんの言だ。ひどい言い方だなあと思ったけど、佐伯くんのその意見には頷きたい部分もあって、わたしは佐伯くんのお誕生日をお祝いしたくてたまらなくて、それで、実際に行動に移してみることにした。


「佐伯くん、はいこれ」


テーブルに頭をつっぷしたままの佐伯くんに、後ろ手に隠し持っていたものを差し出す。佐伯くんが怪訝そうに顔を上げる。差し出した物を見て一言。


「何だこれ」
「誕生日プレゼントとケーキ、だよ」
「おまえな……」


佐伯くんが、やれやれ、という風に座りなおして姿勢を正す。あ、お父さんの説教モードに入ってしまったみたいだ。


「バイト中、俺が散々おごられてたの、見てたよな」
「うん、すごかったね」
「ああ、すごかったよ。で、俺がいま一番欲しいものは、ケーキよりも胃薬な訳だけど、それでもおまえは俺にそれを渡すつもりなのか?」
「うん」


これはちょっと確信を持って頷いた。佐伯くんが片方の眉を上げる。


「佐伯くんは、お誕生日を祝うのとか、こういうイベントごとでワイワイするの、あまり好きじゃないかもしれないけど……」


――やりたいヤツだけでチーパッパやってればいいんだ。


これは前に佐伯くんが言っていた台詞。
体育祭が話題に上った時に交わした一言だったと思う。

佐伯くんはお店でアルバイトを続けるために学校の勉強を頑張らなくちゃいけないし、もちろん、お店のことも忙しい。

たくさん、やらなくちゃいけないことがあるから、お店以外のことに時間を割くのは惜しいのかもしれないけど……。


「でも、こういうのも、良い思い出になるんじゃないかなあ?」
「…………」


佐伯くんはいつも忙しそうにしていて、こういうイベントごとに、あまり時間を割くことが出来ない彼だけど、たまには、こういう風にイベントを楽しむ日があっても良いと思う。


「そりゃあ、今日のケーキおごられまくりは、ちょっと大変そうだったけど……でも誕生日とか学校のイベントも、そういうのを楽しむ時間も、きっと楽しいよ。素敵だよ」


言って笑いかける。佐伯くんは釣られたようには笑ってくれない。やれやれ、という風に首を横に振りながら言う。


「……おまえは、ほんと、前向きっていうか、能天気っていうか……」
「まあね!」
「いや、褒めてないから」
「そうなの?」
「まあ、でも……」


佐伯くんが手を伸ばして、差し出しっぱなしだった紙袋を受け取ってくれた。ようやく。


「受け取っておく。一応な?」
「やったー」


思わず両手を上げるわたしを見て、佐伯くんが呆れたように笑う。


「何で、おまえがよろこんでるんだよ」
「だって、頑張って作ったんだもん、ケーキ」
「へえ、どんな出来なんだか」
「力作だよー」


佐伯くんが紙袋に入っていた箱を開ける。中身を確認して一言。


「……小さいな」


ミニサイズのチョコケーキ。一口サイズでとても小さいけど、ケーキも、“Happy Birthday”と書いたチョコプレートも一応全部手作りだ。誕生日はお店でケーキをおごられまくるんだ、と言っていた佐伯くんのことを考えて、このサイズにしてみた。


「小さいけど、愛情はたっぷり入ってるよ!」
「おまっ……愛情って、おまえなあ……!」


佐伯くんが突然慌てだした。ど、どうしたんだろう? ぶつぶつと何か言っているけど、よく聞き取れない。気のせいか顔が赤い気がする。


「……もしかして、うれしくなかった?」


心配になって聞いてみる。見上げると、佐伯くんが「うっ」という風に言葉に詰まっている。ごほん、とひとつ咳払いをして、佐伯くんは言った。


「…………いや、うれしい」
「ホント!?」
「……と、言えなくも、ない」
「どっち!?」


わたしが混乱して声を上げると、佐伯くんがおかしそうに目を細めた。


「うれしいよ。ありがとう」


何だかとても優しそうな笑顔だった。今日一日、学校とお店で見た佐伯くんの笑顔の中で、一番くつろいでいるような……。どうしてか、ほっぺたが熱を持って恥かしい。


「あ、そうだ! ケーキにはロウソクだよね!」
「ロウソクって、これに?」
「? これ以外ないでしょ」
「……立つのか?」
「いくらなんでも、立つよ! 誕生日は、やっぱりロウソクとケーキだよね」


とはいえ、サイズがサイズなだけに一本だけ。ロウソクをつけて、灯りをつけた。


「はい、準備完了。どうぞ吹き消して」
「はいはい」
「あっ、ちゃんと願い事思い浮かべてね!」
「はいはい」
「あっ」
「何だよ、まだ何か……」
「佐伯くん、お誕生日おめでとう」
「………………」


誕生日は、その人が主役の日だから。
だから、ささやかではあるけれど、せいいっぱいお祝いしたい。面と向かって「おめでとう」って言いたい。――お誕生日、おめでとうって。生まれてきてくれて、ありがとうって。


「はいはい。サンキュ」


ぶっきらぼうに目を伏せてお礼を言うと、佐伯くんはロウソクの火を吹き消した。ロウソクを消す時、佐伯くんがどんなお願いごとをしたのか、分からなかったけど、やっぱりお店のことなのかな。佐伯くんはお店のことが一番大事だから。

今日はわたしの誕生日でもないし、わたしはロウソクを消していないけど、わたしもこっそりとお祈りする。佐伯くんの願い事が叶いますように、今年一年が、佐伯くんにとって楽しいことがいっぱいある、素敵な一年でありますように、って。


「ケーキ、食べる? あとにする?」
「……や、このサイズだし、食べるよ」
「わーい。召し上がれ!」
「はいはい……」


一口サイズのチョコケーキをフォークで半分に切り分けて口に運ぶのを固唾を飲んで見つめる。


「ど、どう、かな?」
「手作り、したんだよな?」
「うん、そうだよ」
「……ま、俺ほどじゃないよな」
「う……それは仕方ないよ」
「でも、うまいよ。ありがとう」
「えへへ……」


佐伯くんにはニヤニヤすんな、と怒られてしまったけど、仕方ない。
受け取ってもらえたのと、おいしいって言ってもらえたのと、あと……佐伯くんも少しはよろこんでくれているみたいで、うれしくて。
大体にしろ、ニヤニヤするなって言っている佐伯くんだって、ニヤニヤ顔、笑顔なんだし。
……今年も、佐伯くんの笑顔がたくさん見られるといいな。


向かい側に座る佐伯くんを見つめながら、もう一度、お祝いの言葉を声に出さずに唱えた。


――誕生日、おめでとう、佐伯くん。






(2012.07.26)
*おしまい
*お誕生日おめでとうございました、と、とても素敵な企画をありがとうございました。どうか、よい一年を。

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