7/19(一年目)


(※素敵瑛誕企画サイトさま「チーパッパバースデイ」さまに提出させて頂いたお話です)
(※一年目友好状態な佐伯くんです)
(※6/12、恋人の日にかこつけて)





「佐伯くん、今日は恋人の日なんだって」
「おまえは……いつもそういう話題をどこから仕入れてくるんだ……」
「いろいろ!」
「いろいろって、どこだよ……」
「秘密! あのね、恋人の日はね、恋人同士でフォトフレームを贈りあう習慣があるんだよ」
「フォトフレームって、お互いの写真を贈りあうのか?」
「うん。素敵なイベントだよね」
「どこが。ただのバカップルのイベントじゃん」
「もう、捻くれてるなあ……」
「悪かったな」
「素敵だと思うんだけどなあ……」
「俺はごめんだね」
「もう!」


そんな会話を交わしながら海沿いの道を帰ったのが先月のこと。

今はもう夏本番という風で、空からの日射しも強くて、足元に落ちる影の色も濃い。
そういう炎天下の屋上に呼び出された。呼び出した張本人は屈託なく笑っている。こんな場所に呼び出して、一体何なんだと思う。

笑顔のままで、見覚えがある雑貨屋のショッピングバッグを差し出された。


「佐伯くん、はい、これ」
「何だこれ?」
「誕生日プレゼントだよ」
「ああそうか……」


言われて気付いた。今日は誕生日だった。自分の。


「……サンキュ」
「開けてみて?」
「うん…………いいな、すごく……って、おい」
「痛っ!」


思わず手が出ていた。恨めしげな目が見上げてくる。構わずまくしたてた。


「写真立ての趣味はいいよ。俺の好みをよく分かってる。いい仕事をしたな、ボンヤリ」
「ぼ、ボンヤリは余計だよ! いい仕事したのに、何でチョップするの!?」
「こ・の・写真だよ、ボンヤリ! 何で、おまえの満面の笑みの写真が入ってるんだよ?」


俺好みの貝細工の写真立て。フレームの中には、何故か満面の笑み(写真写りが妙に良いのが余計に癇に障る)のボンヤリが写り込んだ写真がおさまっている。

写真の中の笑顔とは打って変わって、ボンヤリは急にもじもじと落ち着きを失くし始めた


「えっ、そ、それは……」
「何だよ?」
「このあいだ、恋人の日の話、したでしょ?」
「恋人の日?」
「恋人同士がフォトフレームを贈りあうっていう」


お互いの写真を恋人同士が贈りあう、というイベント。
確かに先月あたりにそういう話が話題に上った。でも“このあいだ”でくくるにはひと月は結構長い。


「ああ、したな。そういう話。で?」
「だからわたしも真似を……痛っ!」
「バカ。恋人同士の話だろ、それは」
「うう……」
「ったく……」


つむじの辺りをさするボンヤリのつむじの辺りにため息を落とす。言っておくけど、そんなに強くチョップはしていない。こいつは反応がいいというか、ノリが良すぎる。そういうところが楽しいと言えなくもないけど、今みたいに悪ノリしすぎるところは、ちょっと短所かもしれない。

手の中の写真立てを改めて見てみる。海の色っぽいガラスのフレームに、ところどころ、貝殻やシーグラスっぽい色ガラスが飾られている。確かに趣味がいい。こっちの好みをよく分かっている。


「……まあ、これはもらっておいてやる」
「ほんと?」
「写真は後で外すけどな」
「ひどいよ!」


まるで悲鳴みたいな非難の声が背中に届いた。その声があんまり間抜けで、思わず笑ってしまいそうになった。それを見とがめて、また「もう!」という声が響く。今度こそ、正真正銘、声を立てて笑ってしまった。







店の後片づけに発注作業……閉店作業を済ませて部屋に戻ると、もう日付が変わりそうな時間だった。ネクタイを外して首元を緩める。首筋をさすってため息をついた。


「疲れたー……」


というか、胃が重い。
じいちゃんが俺の誕生日を客にバラしたせいで今日は散々だった。持ち込みのバースデーケーキに加え、オーダーしたケーキまで「誕生日プレゼント」だと言って差し出される始末。当分ケーキの類は見たくない。それに、いつもより余計に愛想を振りまく必要があったせいで、とにかく疲れた。

――まさか、来年もこんな風じゃないだろうな。嫌な予感が頭をかすめる。またため息をつきそうになった。胃も、気分も重い。


ふと、机の上に置いてあるショッピングバッグが目についた。


「何だっけ、これ……」


ガサガサと中身を取り出す。貝細工の写真立て。そうだ。昼間、学校であいつから手渡されたんだ。誕生日プレゼントだって言って……。


「…………ぶっ」


もらった写真立てを眺めていたら、思わず吹き出してしまった。

貝がらに彩られた海色のフレームの中で、小動物っぽい生き物が満面の笑みを浮かべている。ご丁寧にピースサインまでして。


「…………ホンット、何なんだよ、この能天気な笑顔…………」


写真立てを机の上に置く。倒れないように壁際に。


「……あーあ」


声を上げて伸びをする。写真立ての中ののほほんとした笑顔を眺めていたら、何だか、ごちゃごちゃと悩んでいるのがバカらしくなってきた。


――さっさとシャワーを浴びて、予習も済ませて、今日はなるべく早めに休もう。


もうずい分遅い時間になってしまったけど、写真立ての中の笑いを誘う笑顔を見てたら、肩の力が抜けたのかな、少しだけ、疲れが取れた気もしなくもない。


「ボンヤリの癖に、いい仕事だ」


指先で写真立てを突いてみる。写真の中のボンヤリはデコピンをされたのに、笑顔のままだ。写真につられるように、自然と笑顔になっていた。あんなに愛想笑いを浮かべて疲れていたはずなのに。


――明日、会ったら少し褒めてやろうかな。礼もちゃんと言ってない気がするし。……あんまり言うと、調子に乗るかもしれないけど。


そんなことを考えながら、部屋を後にした。……散々な目にも遭ったけど……でも、こういう誕生日も、悪くない気もしなくもない。




2012/06/13
*おしまい
*佐伯くん、チーパッパハッピーバースデイ!
*チーパッパバースデイさまに捧げます。素敵な企画をありがとうございました(*´▽`*)

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