海辺の二人/足あと


瑛くんは隣りを歩いてくれない。新しく卸した白いサンダルは、細いストラップと、波の泡みたいな色がお気に入りだったけど、まだ履き慣れていなくて、歩くたびに足が痛くて、うまく歩くことが出来ない。足を踏み出すごとに足全体が痛んで、そうして、サンダルの隙間に入り込む砂が肌に熱くて、つらい。

背が高いから、瑛くんの一歩はわたしの一歩よりもずっと先に進める。ただでさえ遅れを取ってしまうのに、上手く歩けないから、いつもよりずっと遅れてしまう。せっかく一緒に砂浜を歩いているのに、これじゃあ、面白くない。

背中を向けてしまった瑛くんは、わたしが遅れているのに気づいていないのか、振り向いてくれる気配がない。ふと下げた視線の先に足あとが見えた。瑛くんの足あとだ。

砂に残った足あとに、自分の足を重ねてみる。思った通り、瑛くんの足はわたしのよりずっと大きくて、わたしの足は瑛くんの足あとにすっぽりおさまってしまう。……少し、楽しくなって、もう一歩、片方の足も瑛くんの足あとに重ねてみた。もう片方も、すっぽりだ。はっきりと楽しくなって、次々と足あとを重ねていった。瑛くんを追いかけるように瑛くんの足あとの上を歩くいて行く。一歩、二歩、と足を進めて行くと、つむじの辺りに声が降ってきた。

「おまえ、歩くの遅い」

見上げると、少し不機嫌そうな瑛くんの顔が見えた。「ごめんね」と謝る。もしかして、待っててくれたのかな?

「サンダルが痛くて、遅れちゃった。砂浜って、こういうサンダルだと歩きにくいね」
「こんな場所にそんなの履いてくるからだろ。自業自得」
「ひどい言い方」
「俺は事実を言ったまでだ。……ほら」

手を差し出された。差し出された手をまじまじと見つめてしまう。

「……砂浜、歩くあいだだけ、手、繋いでやるから」

ぼそぼそと言いにくそうに言われた。ぶっきらぼうなのは、多分きっと照れているせい。本当は、瑛くんは優しい。

「ありがとう。手、借りるね」
「はいはい、どういたしまして」

砂浜を今度は並んで歩く。少し、くすぐったい。
もう足あとは重ならないけど、今はこうして手と手が繋がっているから、もう、いいかな、と思った。




(2012.08.06)
(海辺の二人/足あと)

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