エンドレス・ムービー #2


廊下には、はね学生やら、他高校、一般参加者やらが溢れていて、兎に角、騒がしい。俺の目の前には威張りくさって仁王立ちしている針谷がいて、「さっさと来い」と無言で促してくる。――何だ、この状況は、と思ってしまう。何故って、こんなやり取りや光景なら、昼間に見た覚えがあった。悪い冗談みたいだ。だって、こんなのまるで時間を逆戻しにしたみたいじゃないか。

「冗談なんかじゃねーよ」

痺れを切らしたように針谷が言う。

「こうやってボーっと突っ立ってるうちにどんどん、時間が過ぎてくんだよ! おら、さっさと行くぞ!」
「…………どこへ?」

確信はあったけど、一応聞いてみた。一度歩きかけた針谷は首だけ振り返ると、愈々胡乱げな視線を投げてよこした。

「どこって、音楽室だろ。これから機材運んで準備して、兎に角やることはいっぱいあるんだよ」

同じだ。昼間と全く同じ。
針谷が訝しそうに俺の顔を見て言う。

「何だよ、ボーっとして。寝ぼけてんのか?」
「寝ぼけてなんかない」

咄嗟に言い返してから、思い直した。もしかしたら、本当に寝ぼけてるのかもしれない。だって、こんな話、夢でもなければあり得ないじゃないか。







「…………疲れた」

あれから結局、雑用追われて休みなしだった。ご丁寧にも、昼と全く同じようにことが進んだ。ライブの準備をして、本番、それから後片づけ……本当にそっくり同じことを繰り返すことになった。なのに、この状況に俺以外の誰一人として、違和感を覚えているヤツはいないみたいだった。まるで妙な劇の中にたった一人で放り込まれたような気がした。

「お疲れ」

機材にもたれてぐったりしていたら、針谷が声をかけてきた。これはさっきと違う点だ。

「何だ? 随分疲れてんな」
「……悪かったな」

こっちは全く同じ昼を二度繰り返したんだ。しかも、全然休みなしで。流石に疲れもする。

「悪ぃな。結局ほとんど付き合わせちまった」

何処かで聞いたような台詞だ。でも、突っ込む気力も湧かない。

「別に……」
「あいつのショー、間に合わなかっただろ」

また、どこかで聞いたことのある台詞。そこで初めて思い出した。

そうだ、あかりだ。

「悪い、針谷。俺、もう行くから」
「あ? おう、お疲れ」

さっきは体育館にも家庭科室にもいなかった。でも今もたもたしないで向かえば、もしかしたら、いるかもしれない。

あかりがいる可能性が低そうな体育館には向かわないで真っ直ぐ家庭科室に向かった。先に会った生徒には会わなかったけど、他の生徒にあかりのことを訊いた。中を確認した生徒に、やっぱり中にはいないと教えられる。家庭科室にはいない。……なら、やっぱり教室か? 

時計を確認すると、一度目よりは少し早い時間だった。今から教室に向かえばもしかしたら……と思った。廊下を走って教室に向かう。「廊下を走らないように!」という風紀委員の声が聞こえたけど、走らずにいられなかった。あかりのことが気がかりだった。

息を切らせて教室の扉を開けた。

「…………いない、か」

一度目と同じだ。教室には誰もいないし、窓からは夕日が射しこんでいて、教室全体が燃えるように赤い。

あかりの席を確認する。カバンは置いていない。もう帰ってしまったのか、それとも…………。自分の席に戻って、携帯を取りだした。着信やメールの類はやっぱり、なし。あかりの番号を呼び出す。何度かコール音がして、留守電につながった。通話を切る。

少し考えて、短めのメールを打った。今どこにいるのか、と聞く程度の簡単なメールだ。返事が来れば、それで安心できる。さっきから妙な胸騒ぎがして仕方ない。

メールの返事を待ちながらカバンを持って教室を出た。見当がつく場所は全部回ったし、教室に荷物もないなら、もう帰ったのかもしれないし。先より少し早い時間だけど、もう帰ろうと思う。帰り道の途中に、もしかしたらあかりがいるかもしれないし。校庭で生徒会実行部の連中がキャンプファイヤーの準備をしている。さっきと同じように。

校門を出る時、少し身構えた。……さっきは、ここをくぐった途端、おかしなことになったんだ。まるで時間を逆戻しにしたみたいに、その日の夕方から昼間へ。

校門の前で立ち尽くす俺を何人かの生徒が怪訝そうに見つめながら通りすぎていった。息をついて、一歩踏み出して、校門をくぐった。




「佐伯!」




耳慣れた声が響いた。

振り返ると、針谷が昼間と全く同じ顔をして、ずかずかと近寄ってきた。辺りに人の気配が充満していた。また廊下にいる。昼間の、学校の廊下に。

「…………冗談だろ」

膝から力が抜ける気がした。
悪い冗談としか思えない。

「冗談なんかじゃねーよ。何言ってんだ」

どこかで聞いた覚えのある針谷の台詞が、本人の思惑以上の意味を伴って頭に響いた。同じ台詞をどこかで聞いた覚えがあるけど、それはいつのことだ。最初か、二度目か。頭が混乱して思い出せない。





2012.06.05
*佐伯さんめんご!な展開のまま、続きます><

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