#Interlude 3


またこの場所に来てしまった。羽ヶ崎の海。波が夕日を受けてキラキラと輝いている。とても綺麗なのに、気分は晴れなかった。もうずっと、そう。

佐伯くんはここにはいない。学校も一足先に卒業して、遠くへ行ってしまった。今はもう電話さえも繋がらない。――もう、会えないんだ。あの日、さよならを告げられた時に、そう実感したはずなのに、まだそのことを理解していないみたいに、この海岸へ足を運んでしまうのだから、どうしようもないことだなあと思う。

春は確実に近付いているはずなのに、海から吹く風はまだ冷たくて体に堪えた。眩しいほどに輝く海から目を逸らして足を前へと動かした。じきに陽は沈んでしまうと思う。暗くなる前に帰った方が良い。

佐伯くんはわたしに“さよなら”と言った。そうして遠くへ行ってしまった。さよならはお別れの言葉だ。本当に、もう会えないのかな。本当に? 思考がぐるぐると同じ場所を巡る。答えは分かり切っているのに、まだそれをうまく受け止めきれないでいる。

浜辺は砂に足を取られて歩きにくい。おぼつかなげに歩きながら、佐伯くんのことを考えていると、まるで、探しているみたいな気分になった。ここにはいない彼を探しているような。実際、何度もこの場所に来るのは、そういうことなのかもしれない。この海で、わたしたちは何度も過ごしたのだから。思い出の詰まった海。どうして、この場所にいないんだろう? どこに行ってしまったんだろう。

「――――あっ」

砂に足を取られて、ついに転んでしまった。咄嗟に手をついた剥き出しの手のひらが痛い。……痛い、なあ。何をしてるんだろう、わたし……一人でこんな場所で。

『何してるんだ。このボンヤリ』

耳慣れた声が聞こえた気がして、顔を上げた。目の前には、見慣れた羽ヶ崎の浜が広がっていた。探し人の姿はない。涙が滲んだ。擦れた手のひらが痛かったのと、どうしようもないことを思い知らされたせいだ。

佐伯くんの姿が見えない。どこにも見当たらない。さよならだと言われてしまった。さよならはお別れの言葉だ。もう会えない、ということだ。何度も繰り返して自分に分からせようとしているのに、わたしはまだ本当には分かっていないみたいだ。――佐伯くん、どこに行ってしまったの。

問いかけても、質問に答えてくれる人は誰もいなかった。目の前にはただ、誰もいない浜辺が広がっているばかりだった。



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2012.03.07
*幕間の独白。浜辺にて。

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