かえりみち


(*3/2、卒業おめでとうございます)


「瑛くんはもう卒業済ませてたんだっけ」
「……まあな」
「わたしは今日が卒業式だったよ」
「そうだな」
「卒業、しちゃったんだなあ……」
「………………」
「ね、学校には寄らなくていいの?」
「いいよ、別に。用なんかないし」
「そう? みんなに挨拶しなくていいの? “帰って来たぜ!”とかって……」
「そんなキャラじゃないし。つか誰だよ、それ」
「少年漫画の主人公っぽくしてみました〜」
「おまえなあ……」
「でも、ホントにみんなに会わなくても良いの? ハリーとか、ギターの師匠だったんでしょ?」
「別に師匠なんかじゃないし。ちょっと教わってただけだし。……今日は、いいんだ。そういう日じゃない」
「? そう?」
「卒業、したんだな」
「うん、もう高校生じゃないんだね。何だか実感が湧かないよ」
「だろうな。おまえは特に、まだ頭ん中お子様のまんまって感じだ」
「そんなことないよ!」
「そんなことあるだろ」
「もう! 瑛くんだって、相変わらずだよ。憎まれ口ばっかり。さっきはあんなに優しかったのに……」
「そっ、そういうことをな……ベラベラ喋るなよ、バカ!」
「バカって言った方がバカなんだよ!」
「どっちが!」
「瑛くんこそ!」
「………………」
「………………」
「……ぶっ」
「……ふふっ」
「相変わらずだな、なんか、俺たち」
「そうだね。結局ケンカになるんだね」
「まあな。あのさ、俺……」
「ん?」
「会いたかったよ。おまえに。ずっと、会いたかった。だから今日、この場所に来たんだ」
「飛行機に乗って?」
「そう、飛行機に乗って」
「何時間もかけて?」
「そう、何時間もかけて」
「小さい頃の約束を守るために?」
「……ああ、そうだよ」
「……ふふっ」
「〜〜〜笑うなよ、俺だって言ってて恥かしいよ!」
「違うの。可笑しくて笑ってるんじゃないの」
「じゃあ、何だよ」
「うれしいの。来てくれて。……会いに、来てくれて」
「………………」
「わたしも、会いたかったよ」
「うん、そっか……」
「うん……。あ、ねえ、見て、夕日……」
「夕日?」
「沈みそう。綺麗」
「ああ、うん……綺麗、だな」
「ね、綺麗だね。わっ……」
「危なっ」
「あ、ありがとう」
「ったく、ちゃんと前見て歩けよ」
「うん……」
「ホント、相変わらず危なっかしい……」
「うん、危なっかしいね」
「自分で認めるなよ……」
「でも、ホントだよ。自分でもイヤと言うほど、よく分かったから」
「?」
「わたし、瑛くんがいないと、すごくバランスが悪くなるみたい。危なっかしくて、自分でもビックリするくらい」
「………………」
「だから、もう離さないでね、一人にしないでね。傍に、いてね?」
「ああ……約束する」
「うん、約束、ね」
「もう離さないよ」
「うん…………」
「ずっと一緒だ」
「うん…………」


たくさん、約束を交わした。
また会えるための約束を、たくさん。

そうすれば繋がっていられると信じられたから、わたしたちはたくさんの約束を交わした。
例え今日、離れてしまっても約束があれば大丈夫。今は、そう信じることが出来るから。約束を交わすことすら出来なかった、あの冬の日のお別れとは、違うから。

だからもう、悲しくはない。悲しいお話の結末を塗りかえるように、彼が迎えに来てくれたから。ハッピー・エンドのその先も、まだお話が続いていくことを、彼が教えてくれたから、わたしはきっともう、悲しくはない。

抱きとめて、抱きしめる彼の腕に体を預けながら、目を閉じて、彼の心臓の音と波の音に耳を澄ませた。傍にいられる幸福を感じていた。――あなたに、出逢えて良かった。




2012.03.02
*卒業式後、灯台からの帰り道。
*卒業おめでとう、お幸せに!

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