For Sweet February #3






「……こんなところにいた」

体育座りで俯けたつむじの辺りに声が降ってきた。優しい、女の人らしい綺麗な声。

「……水島さん」
「隣り、座ってもいい?」
「……うん」

屋上の給水塔の影。お昼休みで、良いお天気で、本来ならこの場所は人気のお弁当スポットだけど、二月の風はまだ肌に冷たくて、わたしたち以外、他の生徒の姿はなかった。
隣りに腰かけた水島さんが視線を遠くに巡らせて言った。

「素敵な場所ね、ここ」

百合の花みたいに通った背筋で隣りに座る水島さんを見上げた。

「海が、見えるのね」

風に煽られてさらさらと黒い長い髪が背中に流れる。視線だけ、こちらに向けて水島さんは目を細めた。「うん」と頷くわたしに、水島さんは「はい」と何かを差し出した。綺麗にラッピングされた小箱だ。

「お誕生日、おめでとう。あかりさん」

差し出されたプレゼントをじっと見つめてしまった。何だか、涙が出そう。

「水島さん……」
「今日、お誕生日でしょう?」
「うん……」
「探しちゃった。どこにもいないんだもの。ね、受け取って?」
「うん……ありがとう、水島さん」

プレゼントを受け取る。すごく嬉しかった。最近落ち込んでしまっていたから、水島さんの気持ちが嬉しかった。

「お返し、じゃないけど、時期が時期だから、何だかお返しみたいね?」

ふふっ、と笑う水島さんを見上げる。ポケットから、ホロスコープ早見表を取りだして、目の前でひらひら、と振る。

「早く活用してみたいから、本命さん、教えてね?」

この前のお誕生日に水島さんに渡したプレゼント。そうだ、相手が喜んでくれるようなプレゼントを自分になりに選んで、プレゼントしたんだ。あのときは、まだ、こんなに悲しくなかったのに。

「……どうしよう、水島さん」
「どうかしたのかしら?」
「わたし、酷いこと、言っちゃった……」

瑛くんとケンカしてしまった。売り言葉に買い言葉で、“バカ”と力いっぱい言い捨ててしまった。あの放課後以来、口すらきかない。目も合わない。ケンカしたまま、誕生日になってしまった。
何より、酷いことを言ってしまった。“もう少し優しくしてくれてもいいじゃない”なんて、瑛くんは確かにぶっきらぼうだし、怒りんぼなところもあるけど、けど、優しかったのに。

「ケンカをしてしまったのね」

こくり、と頷きを返す。

「そうねぇ…………」

口元に指先を当てて、思案げな声で水島さんが言う。しばしホロスコープと睨めっこをして、途端、にっこりと笑う。

「大丈夫よ。きっと、仲直り出来るわ。占いにそう出てるもの」
「……ほんとう?」
「本当よぅ。わたしの星占いは当たるの」
「…………」

本当、かな。あんなに酷いことを言ってしまったのに。全然、口もきいてないのに。

「大丈夫よ、あかりさん」

安心させるように柔らかな声で水島さんは言ってくれた。

「今は少しすれ違ってしまっているだけ。時がくれば、仲直り出来るわ」
「でも、わたし、酷いこと、言っちゃった……」
「あら、簡単よ」
「?」
「謝ればいいの」

事もなげに水島さんは言う。……それが出来なくて、こじれてしまったんだけど、なあ。

「でも……」
「仲直りしたいんでしょう?」
「うん……」
「なら簡単」
「…………」

何とも言えない顔をしているわたしを見て水島さんは目を細める。

「きっと向こうも同じよ。謝るきっかけを探して、こんなに時間が経ってしまったのね」
「そうかなあ……」
「きっかけはもう、目の前にあるんだから、あかりさんに出来ることは待つことと、そうねぇ……」
「?」
「泣き顔をどうにかすること、かしら?」
「っ!」
「夜までに目蓋の腫れが引くといいんだけど……」

心配そうにわたしの目元を見つめる水島さんを、わたしは困り目で見つめてしまう。夕べから泣き腫らして、午後になってようやく落ち着いてきたところなのに、まだ酷いのかな……。

「プレゼント、活用してね」
「活用?」
「きっと役に立つわ」
「?」
「そういう贈り物なの」
「?」


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