For Sweet February #1


2月はたくさんイベントがあって、実は何かと忙しい。
これには、個人的な事情も多分に絡むのだけれども……。


その日、商店街でお友達の水島さんの誕生日プレゼントを選びながら、改めて、もう2月なんだということを実感していた。
お店の中は勿論、街のところどころが、バレンタイン用の展示で彩られて、見ているだけでワクワクしてくる。本当なら、1月にはもうバレンタイン商戦が始まっているのだけど、やっぱり2月からが本番、という感じがする。

おいしそうなチョコや色とりどりのラッピング用のリボン、小箱を眺めるうちに、どんどん心が浮き立っていった。――うん、やっぱり、2月って大好きだなあ、わたし。
これは、2月がバレンタインの季節だから、ということもあるし、実を言うと、自分の誕生日の月だから、ということもあったりする。毎年、街がバレンタインの雰囲気でいっぱいになると、誕生日が近いことを実感する。バレンタインの雰囲気も含めて、この季節が好きだなあ、と思う。

当初の目的、水島さんへのプレゼントも決めてからも、少しだけバレンタインコーナーを物色してみた。けど、今は見るだけ。買うのはまた今度にしよう。渡したい相手の好みも、ちょっと気になるし……。そう言う訳で、この日は、ラッピングしてもらったプレゼントを手に、大人しく家に帰った。




翌日、水島さんにプレゼントを渡した。ホロスコープ早見表。いつか、占いが趣味だって聞いていたので、選んだプレゼント。水島さんは凄く喜んでくれたみたいだった。
水島さんの笑顔を見ながら、“うん、やっぱりプレゼントはいいよね”と思った。我が身を省みても、そう思う。贈り物ってうれしいよね。あと数週間先に控えているバレンタインのことが頭をよぎる。…………チョコを渡したら、瑛くん、喜んでくれるかな?

「あかりさん?」
「!?」

水島さんの声で我に返った。――いけない、ボーっとしてた、かも。
急に気をつけをするみたいに真っ直ぐ背中を伸ばしたわたしの格好がおかしかったのか、水島さんは長い睫毛に縁取られた切れ長の目を細めて、くすり、と笑った。わたしでもドキマギしてしまうのだから、男の人がこんな風な笑顔を向けられたら、きっとイチコロだと思う。

「そういえば」と水島さんは笑顔のまま言った。

「バレンタインが近いわね、あかりさん」

ついさっきまで考えていたことをピタリと当てられてしまったような気がして、またドキリと心臓が跳ねた。水島さんが、ふふっ、と笑う。意味深な目で見つめられて、更にドキドキしてしまう。

「今年はもしかして、本命さんがいるのかしら?」
「そ、それは……」
「だぁれ? 教えてくれないの?」

悪戯っぽい目をして水島さんはわたしの目を覗き込んだ。

「その……」
「……ふふっ。ごめんなさい。少し、意地悪しちゃったわね」
「えっ」

水島さんは、おっとりと笑って小首を傾げた。長い黒髪がさらさらと肩を流れる。

「無理にとは言わないわ。でも、よかったら、いつか教えてね。占い、してみたいの」

ホロスコープを指先で指し示して、水島さんは、そう言ってくれた。水島さんの笑顔に向けて頷きを返す。

「うん……!」

今は誰かに打ち明けるのは、恥かしいけど、結局のところ、わたしの心は決まっている。頭に浮かぶのは1人の男の子の姿だ。


「佐伯くん! 今日こそウチらと帰ろうよ」
「ズルーイ! 今日はアタシたちが……!」
「ハハハ……ごめん、今日は、ちょっと……」
「「え〜〜〜〜〜〜〜!」」
「………………ハハハ、参ったなあ……」


その男の子は今日も今日とて、女の子のグループに囲まれている。
困ったような笑顔で、「一緒に帰ろうよ」と言い募る女の子たちの勢いを手振りでおさえようとしながら、多勢に無勢、ということもあって、すっかり気押されてしまって効果が無い。

――今日も大変そうだなあ……。

遠巻きに見つめていたら、ふと、目が合った。途端、瑛くんの目が輝く。『助かった!』と言っているような目だった。
わたしの目に映る瑛くんは、何だかとても分かりやすい男の子だ。怒った顔をしていることが圧倒的に多いけど、喜怒哀楽のはっきりした、ふつうの男の子。
いつもニコニコしてソツがない、王子様然とした瑛くんはわたしにはなじみが薄い。

藁にもすがるような瑛くんのアイコンタクト受け、わたしも覚悟を決めた。女の子の視線がこわいけど、仕方ないよね! これも乗りかかった船、わたしは声を上げた。


「瑛くん、先生が呼んでたよ!」


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