Interlude #1-b
外向きに開け放たれた窓からは夕焼け色の海が見える。風が白いカーテンを内側に向け揺らす。窓際の席に座って海を見ていた。レースのカーテンが、ふわり、と揺れるたびに頬や髪をかすめて、くすぐったい。
目を細めて揺れるカーテンのくすぐり攻撃ををやり過ごしていたら、男の子がやってきて、カーテンに巻き込まれそうになっているわたしを白い布地から解放してくれた。しっしっと手を払って、まるで相手が生き物みたいな扱いよう。ねえ、と彼はカーテンを指さして言う。
「邪魔じゃない? 窓、少し閉めようか」
ううん、とわたしは頭を振る。
「邪魔じゃないよ」
そう返すうちに、またカーテンが風に煽られて生き物みたいにわたしの頬をくすぐる。目を細めるわたしを男の子は疑わしげな目で見つめる。
「……そう?」
「そうだよ」
疑い深い男の子の台詞に頷きを返す。男の子は“ヘンなの”という顔をして首を横に少し傾げる。わたしは声には出さずに“本当だよ”と目を細める。ふわふわとまとわりつくカーテンの感触は決して嫌いじゃないんだよ。
彼のおじいさんが膠着状態のわたしたちを呼んだ。
「おいで、二人とも。お茶にしよう」
カウンター越しに、メガネをかけたおじいさんと、三人分のコーヒーカップが見えた。男の子は振り返ると、こっそりとわたしに耳打ちをした。
「ウチのじいちゃんのコーヒーはすっごくうまいんだよ」
とても素晴らしいことを教え込むような笑顔に、わたしはつい見とれてしまう。男の子は目を細めて笑うと、わたしを促した。
「行こう」
窓から射す夕焼けが男の子の輪郭をオレンジ色に染め上げていた。ついさっき、浜でわたしを見つけてくれた時と同じ色に彼の髪の色が染まっていた。彼の明るい笑顔に引き込まれるように、頷きを返していた。
「うん」
――今、行くね。
彼の笑顔を見つめながら、早く行かなくちゃ、とわたしは思っている。
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2012.01.31
*間奏二幕目。
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