Interlude #1-a
――どこに行っちゃったんだろう。
あの子の姿が見当たらない。ほんのついさっきまで一緒にいたはずなのに、もう姿が見えない。一体全体、どこへ行っちゃんだろう?
最初に会った時も迷子になっていたから、また迷子になってしまったのかもしれない。そう思って、さっきから辺りを探している。けど、全然見つからない。
「じいちゃん」
「ん? どうした? 瑛」
「あの子がいないんだ。ちょっと目を離したら、いなくなってて……」
「いない?」
三人が使った食器を片づけながら、じいちゃんは聞き返した。あの子の姿が見えないことに今気づいたみたいで、辺りをぐるりと見回して、「ああ、確かに」と頷いている。だんだん心配になってきた。
「また迷子になってないかな……」
また一人で泣いてないかな。最初に会った時みたいに、一人きりで泣いてたりしないかな……。もしそうだとしたら、早く見つけてあげなくちゃ、と思う。
「もしかして、ご両親が迎えに来て、もう帰ったのかもしれないな」
じいちゃんは呑気なことを言ってる。僕はあの子のことが気がかりで仕方ない。
「でも……」
「ん?」
「さっきまで、一緒にいたんだ」
本当に、ついさっきまで。
ちょっと目を離した一瞬の間で、いなくなってしまった。
まるで童話の人魚姫みたいに、あっという間に姿を消してしまった。泡になって消えてしまった人魚姫。自分の想像が怖くなって、何度か頭を振って想像を追い出す。
あの子が座っていた窓辺の席に視線を移す。そこにあの子の姿はなくて、ただ、波間で弾ける泡のように白いカーテンがたなびく風にそよいで、ふわふわと揺られているだけだった。――ねえ、君はどこに行ってしまったんだろう?
>> next
>> back
2012.01.19
*続きます。
*インタールード、幕間の間奏。次回は通常運転です。
[back]
[works]