好きだ!うそだ! #5


「あーっと!」

針谷が急に大声を上げた。歌で鍛えてるせいか、無駄に通りがいい。

「何だよ、針谷!」
「もう、こんな時間かー。なあ、お前ら、時間ヤバくねぇ?」

針谷がやけに通り一遍な棒読みで言った。

「時間?」
「そろそろバス無くなるんじゃねぇの。早く帰れよ、バカップル」
「ちょ、針谷、押すな!」
「ほら、急げって」

言いながら、俺とあかりを急かすように出口へ追い立てる。ドアを開けて、ほとんど追い出すようにしながら、言ってくる。

「もうケンカすんじゃねーぞ」
「針谷、おまえ、何言って……」
「ハリーだって言ってんだろ」

針谷は、ふっと笑って「じゃあな、メリークリスマス」そう言って、ドアを閉めた。ドア越しに「イノーーー!」とか、デカイ声が聞こえてきた。何て騒々しいヤツ。つーか、「まだ、クリスマスじゃないし……」もちろん、今はそんなことを言ってる場合じゃない。

「………………」
「………………」

今は、廊下に二人きり、というこの気まずい空気を何とかしなきゃいけない。
廊下は会場ほど空調が効いていなくて、コートなしで立ち話していると、少し寒かった。それはそうだ、今は冬で、あと数日後にはクリスマスだって控えている。

「…………あのさ」

声をかけたら、あかりは言葉通り飛び上がった。小動物みたいに目がビクついている。……そんな顔を見ていたら、つい笑ってしまった。ビクビクした小動物風の目に、少し抗議の色が表れた。
分かってる。笑ったりして悪かった。真剣に取ってやらなくて、悪かった。でも、おまえだって大概ふざけているし、悪ノリすることが多い。あんな形の告白、普段と同じ、冗談か悪ふざけとしか受け取れないじゃないか。

「あのさ…………」

自分の心臓の音が、やけにはっきりと聞こえる。早鐘を打つみたいに、じゃない。ただ、一音一音、やけにはっきりと聞こえた。
注意深く、あかりの目を見て訊いた。

「…………さっき言ってたこと、ホント?」

好き、とか、大好きだとか。
まるでふざけて、人のことからかっているようにしか見えなかったけど……。

あかりは困ったような顔をして俯いてしまった。自分のスカートを皺になりそうなほど強く握りしめている。

「…………ほんとう、だよ」

スカートをまるで手綱みたいに握り締めた手が、髪の毛の間から覗く目尻が、赤い。

「全部、本当だよ」

あかりが顔を上げた。
泣きそうに潤んだ目で、やっぱり本当は酔っ払っているんじゃないか、と思うくらい頬を赤くして、言った。

「好き」

目を伏せて言い直すように付け加えた。

「……大好き」

頭の芯がクラクラした。まるで熱に浮かされたような気分。もう一度顔を伏せてしまったあかりを、伏せた頭ごと抱きすくめた。胸元からあかりの慌てたような声がくぐもって聞こえた。

「てっ、てててて瑛くん!?」
「………………おまえは今、酔っ払っているんだよな?」
「えっ? よ、酔ってないって、さっき……」
「いいや、おまえは今、酔っ払いだ」
「……瑛、くん?」

もがくつむじに言い聞かせるように言葉を被せていく。

「いいか。これはおまえが今酔っ払っているから言うことだからな。そこんとこ、肝に銘じておくように」
「な、なに……?」
「……俺も、好き」

抱きこんだ頭のつむじの辺りに鼻を寄せて囁いた。

「好きだよ」

言って、抱きしめた腕に力を込めた。腕の中で縮こまって、湯たんぽみたいに熱くなったあかりが、おそるおそる、という風に背中に腕を回してきた。
あかりの小さな手が背中の布地をきつく掴んでいるのを感じた。さっきあかりが白状した時に掴んでいたスカートみたいに、強く。きっと後で皺になると思う。けど、別に構わない。今は、腕の中で小動物みたいに震えているあかりを離したくなかったし、離せそうにもなかった。
さっき口にした台詞をもう一度、よく聞こえるように、赤く染まった耳に囁いた。




#好きだ!うそだ!
*(……ホントだよ)
[2011.12.06/title.にやり様]
*(とても今更ですが)お酒は二十歳になってから!

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