おくちの中は未開封 #4





「お邪魔しまーす!」
「………………帰れ」
「……それ、開口一番言う台詞かなあ」
「何しに来たんだよ、帰れ」
「帰りません。今日はこの前のお礼に来たの」
「別の日にしろ」

そう言って、ドアを閉めようとしたら、あいだに足を突っ込んできた。挟まったら危ないだろう、このボンヤリ!と思う。思うだけで、チョップも突っ込みも無しだったのは、別に油断したとかじゃない。本調子じゃなかったせいだ。
ドアのあいだに半身を割り込みながら、あかりが言う。

「聞いたよ。瑛くん、風邪引いたんでしょ?」
「…………おかげさまで、ばっちりうつされたんだよ。悪いか」
「悪いと思ってるから、お見舞いに来たんだよ。ね、入れて?」
「………………」

何を詰めこんできたのか、あかりが肩から提げている淡い水色のナイロン製のショッピングバッグはパンパンに膨らんでいた。

「うつるから、帰れ」
「免疫があるから、大丈夫。瑛くん、熱だけ? 咳もくしゃみも出ない?」
「ああ、うん」
「じゃあ、同じ風邪だよ、きっと。熱が落ち着いたら鼻水がたくさん出てくるから、はい、これ」

扉に半分挟まれかけながら、あかりは器用にバッグから何か取り出して差し出してきた。

「何だこれ?」
「ティッシュだよ。セレブ用のやつ」
「…………セレブって」
「あんまり鼻が赤くならないんだって」

使ってね、と言ってあかりはにっこり笑いかけてくる。……すっかり風邪が治ったようで、何より、と思う。その分、我が身の不調が恨めしい。まさか、うつるとは……。

「瑛くん、薬は飲んでる? ご飯、もう食べた?」
「食べたし、飲んでる。だから、さっさと帰れ」
「お見舞いさせてよ!」
「断る」
「瑛くんの意地っ張り!」
「おまえ、それ病人に対する態度じゃないぞ」
「瑛くんこそ、病人なら大人しく看病されてよ!」
「い・や・だ」

絶対に嫌な予感がするから、イヤだ。それでなくても、こんな適当な格好で弱ってる姿なんか見られたくないのに。戸口であーでもない、こーでもないと問答を続けていたら、家の中から声が響いた。

「瑛、薬は飲んだかい? ……何だ、まだ飲んでないじゃないか。早く……おや、お嬢さん、いらっしゃい」
「………………」
「こんにちは、マスター! 瑛くんのお見舞いに来ました」
「やあ、よく来てくれました。この通り、風邪っ引きの癖に、どうにも元気でね。休もうとしないんです。お嬢さんが来てくれて、よかった」
「はい、お邪魔します!」
「………………勘弁しろよ、二人とも……」

頭を抱えた隙にあかりがドアのあいだに体を滑らせて来る。……もういい。なるようになれ。

「ご飯、食べた?」
「……食べた」
「食べてないだろう。折角うどんも作ったのに、伸びてしまったじゃないか」
「………………」
「じゃあ、おかゆ作ったげる」
「うどんでいい」
「瑛、あんな伸びきったのは食べなくてもいいよ。あれは私が片づけておくから、お嬢さんのご厚意に甘えておきなさい。お嬢さん、お願いしても構いませんか?」
「はい、もちろんです!」
「………………」
「瑛くん、おかゆ、たまご入りでいい?」
「……何でもいい、もう」
「じゃあ、“あーん”ってしてあげるね!」
「それは、ゼッタイに、いらない」

一音一音、区切るようにはっきり言ってやった。つーか、二人きりならいざ知らず、じいちゃんもいるのに、なんてこと言うんだ。熱のせいか、頭がくらくらする。

「でも、このあいだ、瑛くんしてくれたじゃない」

恥じ入るように口ごもって、責めるような上目づかい。一体何が不満なのか、唇を尖らせている。…………いろいろと反則過ぎる。

「…………おまえ、本当はトドメ刺しに来たんだろ。看病じゃなくて」
「そんなことないよ、お見舞いに来たんだよ」

まったく素の様子で、そんな風に返す。それから、窓から射す光の下で、微笑みながら言った。

「よく食べて薬飲んで、いっぱい寝て、早く良くなってね?」
「………………」

分かった、分かったよ。
もう何も言うまい。大人しく看病されてやる。
このあいだの我が身を思い出して、観念した。大人しく、よく食べて寝て、早く治そうと思う。

「“あーん”してあげるからね」
「イ・ヤ・だ」

でも、これだけは別だ。そんな恥かしいことをされたら、かえって熱が上がるに決まってる。





[title.にやり様/2011.11.06]
*おしまい!
*以上、“あーん”する(というか、看病する)瑛主でした^▽^!

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