おくちの中は未開封 #2





結局、持ってきたシャーベットを出した。空腹に詰め込むものじゃないだろうけど、あかりは素直に喜んでいる。

「すごくおいしいよ、瑛くん!」

さっきまでの元気のなさはどこへやら。シャーベットを食べながらあかりは感激している。

「……どういたしまして」
「ホント、おいしい。有名なお店のヤツなの?」
「手作りだよ、ばぁか」
「えっ」

あかりは匙を置いて、目を丸くさせた。

「シャーベットって、手作りできるの!?」
「出来るよ、当たり前だろ!」
「だって、専用の機械とか、必要じゃないの?」
「そんなの使わなくたって作れるよ。まあ、手間はかかるけど……」
「そうなんだ……ね、瑛くん」
「何」
「ありがとう。わざわざ作ってきてくれたんだね」

そう言って、本当に嬉しそうに笑う。額に冷えピタを貼っているせいで、格好は付かなかったけど……、何だか、久々にそんな笑顔を見た気がして、不思議と不快じゃなかった。いや、むしろ……。

「……家、一人だったのか?」
「うん。お母さん、ちょっとどうしても外せない用事があって」
「それで、飯を食いはぐれた、と」
「……ずっと寝てて、何だか起きるのが億劫で、そしたら、チャイムの音が鳴ってて、ああ、出なきゃ〜って階段下りてたら、落っこちちゃって」
「……この、ドジ」
「だって……」

むくれたように頬を膨らませている。チョップの代わりに、鼻をつまんでやった。

「風邪引いてるんだから、そういうときは無理しないで寝てろよ」
「でも……」
「さっきだって、打ちどころが悪かったら大変だったろ」

今回は運がよかったんだ。倒れているのを見た時、ゾッとしたのを思い出す。あんなのは……本当に勘弁だと思う。
鼻をつままれたまま、あかりが不思議そうに見上げてくる。鼻を解放してやる。

「……瑛くん」
「……何」
「もしかして、心配してくれたの?」
「してない」

一音一音区切るように、はっきりと言ってやった。心配じゃない。

「ただ、気になっただけだ」

何か言いたげな目を無視して立ちあがる。

「……瑛くん?」
「……朝から何も食ってないんだよな?」
「う、うん」
「おかゆ、作ってやるから、ちょっと待ってろ」
「えっ、いいよ、シャーベット食べたから……」
「それだけじゃ栄養になんないだろ。しっかり食べて、薬飲んで、寝て、早く治せ」
「瑛くん……」

そのまま、部屋を後にしようとドアノブに手をかけたら、背中に声がかかった。

「瑛くん、あのね……」

振り返ると、熱のせいなのか、それとも、何か気恥かしいのか、頬を赤く染めてあかりが布団を手にもじもじしている。……何だ?

「……おかゆ、たまご入りがいいなあ、なんて」
「……………………」

あかりは布団を鼻先まで持ち上げている。……文句も言いたいことも、全部、後回しだ。倒れていたの抱き起こした時、名前を呼んで目を開けてくれた時、思った通りに行動することにした。


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