会いにいくまぼろし #4


結局屋上に逃げ込んだ。登校時間にはまだ随分早い時間帯。流石にこの時間に屋上にいる生徒はいない。俺たちの他に、という話。
朝とは言え、夏特有の強い日差しが目に眩しい。給水塔下の日陰部分で空を見上げていると、息を整え終わったのか、隣りから声がした。

「……よかったの?」
「何が?」
「逃げちゃって」
「逃げなきゃやってられないよ」

ぼやいたら、あかりがぱちぱち、と何度か瞬きをした。

「何だよ?」
「別に、何だか、少しだけ意外だったから」
「意外?」
「まさか一緒に逃げることになるとは思わなかった」

あかりは屈託のない笑顔で見上げてくる。

「あとで大変だね?」
「……イヤなこと言うなよ」
「チャイムが鳴るまで、ここにいるの?」
「まあ、そうだろ」
「そっか」

腕時計であかりは時間を確認している。

「けっこう時間あるね……」
「まあな」
「ふふっ」
「何だよ……」

ニヤニヤ顔であかりが見上げてくる。やたらと楽しげにしている。

「佐伯くんのメガネ姿、珍しいなあって」
「なっ……」

反射的に顔が赤くなる。忘れてた。そういえば、メガネのままだった。コンタクトは……多分、教室に置いた鞄の中だろう。今更教室に戻る気にはなれなかった。かと言って、このままメガネでいるのも気恥かしい。

「見るなバカ!」
「似合うのに〜」
「似合わない!」

高校の頃に比べ慣れたとはいえ、やっぱりメガネをしている顔を見られるのは慣れないし、恥かしかった。こればかりは慣れようがないし、これからもしばらく変わりそうになかった。どうしようもない話。




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