会いにいくまぼろし #1


あかりとケンカした。ケンカなんて出会った頃から、これまで何度も繰り返してきたけど、今回のは結構堪えているかもしれない。

電話をかけようと思って、やめた。もう遅い時間だ。あいつも最近忙しいみたいだから、今頃はもう疲れて寝てるかもしれない。

「……何だかなあ」

一度出した呼び出し番号を消して、待受け画面に戻る。表示された日付と時刻に、またため息をつきそうになる。2011年の7月19日。時刻はもうじき0時に回りそう。今からほぼ24時間前、俺は21歳になったばかりだ。ハッピーバースデイ、俺。……何が、ハッピーだ。やっぱり、あんな強がり言わなきゃ良かった。そしたら今頃こんな思いしてない。

空を見上げると、当たり前のように真っ暗だった。雲が邪魔してるのか、星も見えない。見えたからって、何かが変わる訳でもないけど、少しくらい良いじゃないか、と思ってしまう。何もかもうまくいかないと、些細な事にでも悪態をつきたくなる。21歳。もう大人の仲間入りをして1年目、だって。早く大人になりたいって思っていたのに、未だに足踏みしてるような気分。年齢だけは大人だけど、ちっとも大人の余裕みたいなものを持てていない気がする。

別に、あの頃に戻りたい、なんて思った訳じゃないんだ。ただ、懐かしく思った。毎日毎日、学校でバイト先で、あいつと当たり前のように会っていた頃のことを。本当に、あの頃は当り前のように毎日あいつの姿を見かけていた。

今はそういう訳にもいかない。俺もあかりも今は大学三年。俺はまだしも、あかりは周りの就活組と一緒で毎日忙しいし、今の時期が正念場なんだと思う。だから、最近はほとんど会えていない。いつも一緒にいたくて仕方なくて、早く大人になりたかった高校の頃よりも、一緒にいられる時間が少ないってどういうことだよ、と思ってしまう。……そんなこと、絶対言っちゃいけないことだったとは、思うけど。

「でも、やっぱり会いたい……」

特別なことは何もない。本当にそれだけ何だけど。いや、それが贅沢なんだってことは分かってるけど……。

不意に目の前が、ちかちかと瞬いて、目がおかしくなったかと思った。別にコンタクトがずれた訳じゃないっぽい。でも、何か光ったような? ……虫? いや……。空を見上げてみる。やっぱり真っ暗で、星なんて一欠けらも見当たらない。そうだよな、そんな訳ないよな、と思う。一瞬だけ。星でも降ったのかと思った。俺は俺で疲れているのかもしれない。バイト帰りだし、夏だし、暑いし、熱帯夜だし、誕生日だし。……最後のは関係ない。関係ないだろ、うん……。


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