真夏のデート #3
「……ボンヤリ」
「……うう」
「……ウッカリ」
「……ううう」
「……早とちりの勘違い」
「……ぐうの音も出ません」
結局。
あかりが言った『何か走ってくる』ものは、アトラクションの一部、お化けに変装した係員さんで。
あのまま出口まで全速力で駆け抜けた俺たちは、出口の係員さんから注意を受けた。『危ないから、館内では走らないでください』まるで小学生みたいな注意。
「ご、ごめんね? 瑛くん……」
「…………ま、良いけど」
「え?」
怖かったのは、俺もだし。そもそも手を引いて走り出したのは俺だし。珍しいものも見られたし。
「おまえってさ」
「うん?」
「案外怖がりだったんだな?」
咄嗟に否定の台詞が続くと思ったのに、あかりは俯いてしまった。
「わたしだって、怖いものは怖いよ」
「じゃあ、何でお化け屋敷なんか、入ったんだよ?」
しかもかなりノリ気だった癖に。入るとき、相当はしゃいでいたし、てっきりこういうのが好きなんだと思ってた。
「それは……」
「それは?」
「…………夏のお化け屋敷って、定番の、その、デートスポットだから……」
――だから、一度、瑛くんと一緒に入ってみたかったの。
ぼそぼそと顔を俯けたままあかりが言った。あいにくこここはお化け屋敷の中みたいに暗くはなくて、それどころか空は夏日の晴れ間、つまり、顔が赤いのがまる分かりだった。よもや、暑さのせいだけ、と言う訳じゃないだろう。
――それにしても、ああ、もう……。
なんて、かわいい理由だろう。手段は最悪にせよ。
「あかり」
「……何?」
「約束、したよな?」
「約束?」
「お化け屋敷、一緒に入ったら何でも付き合うって」
あかりが、うっ……と言葉に詰まったような顔をする。
「て、瑛くん……わたし、さっき走ったせいで流石に三連続ジェットコースターは結構きついかも……」
「何でも、って言ったよな?」
「言いました……」
「来週、花火大会、付き合って」
「え?」
「これも夏の風物詩だろ?」
それに夏の定番のデートスポットでもある。……なんて、流石に気恥かしくて言い出せなかったけど。
「瑛くん、良いの?」
「俺が誘ってんだろ? で、返事は?」
「うん、行こう!」
「…………良し」
茹る様な日差しに暑さ、海も花火も、夏を感じさせるものは大抵好きだ。嫌いじゃない。極々例外を除いて。折角なら、外れより当たりを引きたいじゃないか。何も、こんな形で夏を満喫しなくたって。だから……来週は花火大会だ。仕切り直しも兼ねて。
「言っとくけど、花火大会と言えば、分かってるよな?」
「うん、分かってるよ!」
「よろしい」
「夜店だよね! わたあめ、りんご飴、イカ焼き……おサイフ忘れないようにするね!」
「違うだろ!」
「えっ、ち、違うの?」
「いや、夜店も良いけど……もっとあるだろ、こう……」
「?」
本当に何のことか見当がつかないらしい、ボンヤリに仕方なしに言ってやる。
「……浴衣、楽しみにしてるから」
言いながら、頬が勝手に熱を持つ。あかりはぱちぱちと何度か瞬きをしてから、破顔した。満面の笑顔で頷きを返してくる。
「分かった。……瑛くんも着て来てね?」
「あ、ああ、そうだな……」
そういう訳で来週は花火大会だ。多分、二人して浴衣を着て。
全く、何て暑いんだろう。夏は暑い、当たり前の話。だけど、多分、それだけが理由な訳じゃない。
真夏のデート
[7500hit thanks / 2011.06.23]
*【遊園地のお化け屋敷デートで嫌がる瑛くんと無邪気なデイジー】
*ぽんさんに捧げます。完成まで時間がかかってしまって、ごめんなさい。素敵なリクエスト、ありがとうございました!
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