真夏のデート #1


――夏は暑い、当たり前の話。

「ということで、お化け屋敷行こう!」
「ゼッタイに、イヤだ」

暑いのは、そんなに嫌いじゃないし、むしろ夏は好きだし。夏っぽいものは大抵好きだ。でも、これは別だ。

「え〜、行こうよ〜! お化け屋敷で涼しくなろうよ!」
「しつこい。俺はゼッタイにイヤだ」
「どれにするって聞いてきたのは瑛くんなのに……」

あかりが頬を膨らませる。子どもがむくれている風の顔。そりゃ、まあ、リクエスト聞いたのは俺だけど……。

「大体な、見ろよ、この空」
「空?」

言われた通り、あかりが空を仰ぐ。空は雲ひとつない快晴だ。

「こんな天気なのに、何だって、わざわざあんな薄暗いとこに行かなきゃいけないんだよ」
「でもお化け屋敷は夏の風物詩だよ!」
「そんなことはない」
「そんなことあるよ!」

じりじりと膠着状態が続く。幾ら夏の晴天が好きとはいえ、流石に頭の天辺が熱い。

「じゃあ!」

あかりが人差し指を立てて、提案してくる。

「一緒にお化け屋敷に行ってくれたら、あとは佐伯くんの好きなとこに付き合うから!」
「俺の好きなとこ?」
「うん、何でも付き合うよ」
「ジェットコースター三回連続でも?」
「う? う、うん!」

……間があったものの、あかりは頷いてきた。なるほど……。

「……何でもって言ったな?」
「……う、うん」
「前言撤回は無しだぞ」
「……もちろん!」
「仕方ない、付き合ってやる」
「やったあ!」


……しかし、早くも前言を撤回したい。


「……なあ、ほんとに入るのか?」
「うん!」

屈託のない反応。……いいよな、こいつは。頑丈にできている奴が羨ましくなる。
付き合うと言ったものの、実際に目の前にしてみると迫力が違う。何て言うか、こう、禍々しさとか、おどろおどろしさとかが。入ったらゼッタイ後悔する。いや、入らなくても、もう後悔している。

「瑛くん?」

あかりが上目づかいに見上げてくる。気遣わしげな視線。言外に『大丈夫?』と言っている風な視線に対して反射的に『別に』と答えそうになる。いや、大丈夫じゃないんだけど……。

「……やっぱりやめとく?」
「……………いや」

一度行くって言ったし。約束は約束だろうし。

「………………行く」
「うん! 行こう!」

あかりが満面の笑みで頷いて、先を歩き始める。どうして、こいつはこんなに頑丈なのかな……とつくづく思ってしまう。
こんなおどろおどろしくて、不気味なアトラクション、そんなに愉快なものでもないだろうに。何がそんなに楽しいんだか、先を歩くあかりの足取りは軽い。台風を前にした子どもみたいに、目の前の危機を自覚してないまま無暗にはしゃいでいるような。
暗闇に飲まれそうな茶色い後ろ頭に向け、声をかける。

「おい、先に行くなよ」

入口付近であかりが振り返る。チケットを切ってもらいながら、「そうだね」と頷いて、手を差し出してきた。何のことか分からなくて、薄暗がりの中でも白い手のひらを見つめる。切ってもらったチケットを受け取る。何も言わない俺を不思議に思ったのか、あかりは小首を傾げて言う。

「手、繋ごう?」
「はっ?!」
「えっ、そんな変なこと?」
「へ、変だろ……! なんで手なんか繋がなきゃいけないんだよ!?」
「それは……」

黒目がちの目が真っ直ぐに見上げてくる。非常灯の明りに照らされてきらきらと光る。

「手を繋いだ方が怖くないかなあって」

頬が勝手に熱を持つ。

「そ、そんなこと……!」
「あ、あの〜、申し訳ありません、お客様……」
「えっ?」

後ろから控えめな声がかけられた。振り返ると、チケット係の人がすまなさそうに眉を下げている。その後ろには、困惑顔のカップルの列……

「後のお客様が進めませんので……」
「あ、は、はいっ! すみません……!」

一度熱を持った頬が更に熱くなる。違う理由ではあったけど。



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