きみのパパが知らないいくつかのこと #3





「……『はじめまして』、だって」

今は眠っている君に話しかける。瑛くんが言っていた台詞。何だか謎めいた台詞ばかりだったけど……。

「『はじめまして』なんだよね」

頬に頬をくっつける。柔らかな感触。

「でも不思議だね、『はじめまして』って気がしないよ」

眠る君に問いかけてみる。小さな君は秘密を抱え込んだまま眠っている。どんな夢をみているのかな。いつか、お話できるようになったら、聞いてみたい。





「……ただいま」

朝から冷え込む12月の某日。遅くに帰ってきた我が子は体の芯まで冷え切っているみたい。

「おかえり、遅かったね」
「うん、あのさ」
「うん?」

ガサガサ、と手にした紙袋を手渡される。

「メリークリスマス」
「えっ? ありがとう!」

何かなあ、と中身を覗いてみる。

「これ……」
「随分、長く借りてたみたいだけど……」

中身は見覚えのあるショール。いつかの台詞を思い出す。

――『これ、必ず返すから。その……時間かかるかも、しれないけど』

わたしは心配そうな顔に向けて笑いかける。

「でも約束、ちゃんと守ってくれたんだね」
「……うん」
「おかえり。随分遠くまで遊びに行ってたね?」
「うん、ちょっと、余計なお世話しに行ってた」
「そっか。ありがとう?」
「うん、どういたしまして」
「ケーキ食べる?」
「食べる。新作?」
「うん、力作だよ。パパ、すっごく悩んでたんだから」
「へえ、それは楽しみ」
「わたしも楽しみだよ。もうね、すっごい力作なんだよ。あ、わたしが喋ったこと、内緒にしててね? 驚かせたいみたいだから」
「分かってる。……あのさ」
「うん?」
「約束、守ってくれて、ありがとう」

どこか照れくさそうに、ぼそぼそと喋る姿は、まるで昔の瑛くんのよう。
わたしは笑いかけて、頭を撫でる。もう、つま先を立てないと、その頭のてっぺんには届かないけれど。

「こっちの台詞! さ、早く着替えて来なさい!」
「〜〜〜やめてよ、ガキじゃないんだからさあ!」
「ガキだろ、どう見ても」
「あ、瑛くん」
「出た、ひねくれ大王」
「何か、言ったか?」
「別に何も?」
「つーか、帰り遅すぎだろ。連絡くらい入れること。……ん? 何だ、その紙袋?」

瑛くんがわたしの手の中の紙袋を覗きこもうとする。わたしは、何かと秘密が多い息子の顔をちらり、と見つめてみる。まるで目配せするように、何度か瞬きをする、我が子……。思わず笑い出してしまいそうなのを堪えて、わたしは頭を振って見せる。

「クリスマスプレゼントだって」
「へえ、感心。ショール? あれ、何か、これ、見覚えが……」
「瑛くん瑛くん、ほら、早くケーキ食べようよ!」
「ん? ああ、うん。つーか! 子どもの前で、その呼び方すんな!」
「今更だよ、親父」

階段の途中から声が降ってくる。うーん、地獄耳だなあ。瑛くんが「ウルサイ!」と言っている。顔は見えないけど、耳が赤い。何だか、ひどく懐かしい気分。紙袋のショールは、あとでどこかへ仕舞い込んでおこうと思う。君のパパが知らないいくつかのこととして、大切に、大切に。



[title:にやり様]2011.06.07
(おしまい!)
(幸せ家族してればいいじゃない! 妄想ねつ造失礼しました!)

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