きみのパパが知らないいくつかのこと #2
「ねえ、寒そうだよ?」
「えっ? ああ、うん。寒いね。流石、冬」
鼻の頭を少し赤くして、顔の前で手をすり合わせる仕草。本格的に寒そう。
そうだ、と思いついて首元に手をかけて、巻いていたショールを外す。
「これ、巻くと良いよ」
「えっ? いいよ、悪いよ」
「ダメ。風邪引いたら、いけないでしょ?」
「でも……」
「いいから」
つま先立ちになって、首元にショールを巻きかけた。ぐるりと巻いて、風でほどけてしまわないように格好を整える。
見上げてみると、男の子の顔が赤い。やっぱり寒くて仕方なかったんだと思う。鼻の先だけじゃなくて、ほっぺたまで真っ赤なんだもの。
「出来た!」
ぽん、とショールの上から肩を叩く。
「……ごめん。ありがとう」
「いいよ。それより少しはあったかい?」
「うん。温かいよ。すごく」
「なら、良かった!」
男の子が気遣わしげに聞いてくる。
「君は寒くない?」
「わたし? わたしは、ほら、コート着てるから平気だよ」
「……そう。あのさ」
「うん?」
「これ、必ず返すから。その……時間かかるかも、しれないけど」
思いのほか、真摯な口調。律儀な子なのかな? わたしは笑って頭を振る。
「いいよ〜、そんなの」
「でも、俺の気が済まないから」
「じゃあ、瑛くん経由で返してくれていいから」
すると、鳩が豆鉄砲を食らったような、きょとんとした顔。……あれ?
「……何で、そうなるの?」
「えっ? だって、瑛くんのお友達さんだから……」
「ああ、そっか。そうだね、そういう話だった。うん」
「?」
まるで言い聞かせるような物言い。何だろう? やっぱり変な事を言ったのかな、わたし。
「まあ、いいや。必ず返すから」
「う、うん……」
時計を確認する。あ、と思う。
「そろそろ時間?」
「う、うん……」
男の子の言葉通り、そろそろ集合の時間だ。
「引きとめちゃって、ごめん」
「ううん、いいの。また会えて嬉しかった」
「俺もだよ」
「じゃあ、ごめんね。わたし、行くね」
「うん。…………あのさ!」
踵を返して、歩きかけていた背中に声がぶつかる。少し緊張した声。振り返ると、声の通り、幾分緊張した顔をした男の子。
「あのさ……今はまだピンと来ないかもしれないけど…………」
「うん?」
「あいつのこと、宜しく頼んで良いかな?」
「あいつ? もしかして、瑛くんのこと?」
「うん、そう」
「でも、どうして?」
「ほら、あの人、酷い意地っ張りだから……」
「うん」
「だから、いつか、あの性格のせいでパンクするんじゃないかって……いや、心配しすぎなのかもしれないけどさ!」
男の子は体の前で手を振る。わたしは頭を振る。
「ううん。分かるよ。よく、分かる」
「……うん。だから、支えてあげてほしいんだ」
「……瑛くんは良いお友達に恵まれたんだね」
「…………何でそうなるの」
憮然とした表情。わたしはというと、微笑ましい気分でいる。
「だって、こうして親身に心配してくれる友達がいるんだもの」
言われた男の子は「それは……何て言うか、違うって言うか……」とぶつぶつ言っている。
「とにかく、宜しく頼むよ」
「うん、頼まれた!」
頷くと、男の子は複雑な顔をしたのち(呆れた時の瑛くんの顔に似ていた)、頷き返してくれた。
「じゃあ、今度こそ、行って。引き止めてごめん。ああ、あと!」
「うん?」
「約束、忘れないで」
交わした約束二つ。わたしは頷きを返した。
「うん、忘れないよ」
どこか安心したように笑う男の子に向け手を振る。
「またね!」
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