不機嫌な理由は教えられません #4


「うん、何かな?」
「ちょっと質問があるんだけど……」

女の子たちの表情は気難しげで真剣だった。

「何?」
「海野さんって、佐伯くんと付き合ってるの?」
「えっ?」
「最近、一緒にいるとこ、よく見るから……」
「仲も良さそうだし…………」

女の子たちは聞きづらそうに視線を伏せていた。緊張感が伝染する。慎重に答えないといけない局面だって分かった。佐伯くんの顔が脳裏を過る。珊瑚礁のために学校では波風立てたくない佐伯くん。

「ううん」

頭を振る。

「付き合ってないよ」

わたしたちはそういう関係じゃない。だって、わたしと佐伯くんは……。

「友達だよ。ただの」

きっぱりと言い切った。

「……そうなんだ」

どこか釈然としない表情が残るものの、女の子たちの声には安堵の色。良かった、誤解は解けたみたい…………そこで、視界の端に見慣れた顔を見つけた。

「佐伯くん……」
「えっ? あ、佐伯くん!?」
「えっ、ホントだ!」

陽の当らない場所に立っているせいか、佐伯くんは顔色が悪いように見えた。

「佐伯くん?」

呼びかけると、ハッとしたような顔をして、周りの状況にも気づいたみたい。いつの間にか、さっきまでの深刻な雰囲気は吹き飛んで、嬉しそうに話しかける女の子たちに佐伯くんも笑顔を返す。……いつもの佐伯くんだ。そのときは、そう安心してその場を後にしたんだ。

「…………もしかして、原因は、これかなあ?」

そう呟くと、西本さんは呆れたように叫んだ。

「もしかしても何もない! それやん、それしかないやん!」

またしても、教室に残っていた面々が振り返る。けれど西本さんは気にした様子はない。

「何っで、その場で気づかんの? 何で、一か月も気づかんかったの?」
「だ、だって……」
「だって、も、何もない! すぐにプリンスに謝り! 出来るだけ早く!」
「う、うん……」
「ああもう、ほんまプリンスが気の毒になってきた……」

ふるふる、と首を横に振っている西本さん。わたしは何だか、微笑ましい気分になってしまっている。

「なに、笑っとるん?」
「ご、ごめん……何か、安心しちゃって」
「安心するのは早いで? 謝って許してもらえるか、まだ分からんやろ?」
「怖いこと言わないでよ、西本さん……」
「いーや、アンタにはこれくらいキツク言っとかんとアカン。さっきつくづく反省した」
「そうかなあ……ふふっ」
「だから、何がおかしいん?」
「ううん、だって……」

わたしが理由を告げると、西本さんは呆れた顔をしたのち、「まあ、そうやね」と賛成の言葉を返してくれた。次いで、「アンタには適わんわ」という台詞も。そうかなあ、とわたしは首を傾げてしまうものだ。


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