不機嫌な理由は教えられません #3


「喧嘩とか、した?」
「ううん、してないと思う」

してないと思う。本当にいつの間にか。いつの間にか、こんな風に疎遠になってしまっていた。

「じゃあ、原因はなんやろう? いくらなんでも理由もなしに避けられる、とか、無いやろうし……」
「うーん……何だろう……」

理由、原因…………思い当たるようなことは無かった。本当にいつも通り過ごしてつもりだったから。

「……バレンタインに失敗チョコ渡しちゃったのが、ダメだったのかなあ?」
「あんた、失敗チョコ渡したん……?」
「うん、時間切れになちゃって……」
「う〜〜〜ん、乙女として、それどうなんって思うけど、プリンス怒ってたん?」
「ううん、喜んでくれてた……」
「良かったやん。普通は怒るで。そんなん渡されたら」
「あと、今度レシピ教えてやるって言ってくれたよ」
「……ちょ! プリンスめっちゃ良い人やん! アカン、そんな人に失敗チョコ渡したりしたらアカンて! 来年こそ、気張り!」
「う、うん、頑張る!」

決意も新たに力強く頷く。わたしの反応を見て、西本さんも一つ頷き、それからまた、顔を曇らせる。

「ああでも、そうすると、失敗バレンタインチョコにも動じなかった相手がどうしたんやろうねえ?」
「うーん……誕生日プレゼントかなあ?」
「何渡したん?」
「大怪獣柄パジャマ」
「……ないわー」
「で、でも、佐伯くん、怪獣が好きだって言ってたから……」
「だからって、高校男子に大怪獣パジャマは、ないわー」
「うう……」
「で? プリンスは何て?」
「『これをもらって、俺はどんな顔をすればいいんだよ』って」
「めっちゃ、不興買ってるやん〜」
「理由はこれかなあ」
「ちょい待ち、プリンスの誕生日って何月?」
「七月」
「もう三カ月も前やん! 時期的にそれが理由とは考えにくいんと違う? 避けられ始めたの、一月前からなんやろ?」
「うん……」

でも、そうすると、理由は何だろう。こうやって、すぐに理由が思い当たらないところがいけないのかもしれない。

「何か思いだせることないん? 一月前のこと」
「一月前…………」

記憶をさかのぼってみる。……さかのぼってみる。

「…………あ」
「ん、なに?」

興味津津、という顔で乗り出す西本さん。

「一か月前にね」
「うん、なになに?」
「わたし、女の子たちに囲まれたことがある」
「へ?」

そうだ、一か月前。
帰り支度を済ませて、教室を出て、玄関で靴を履きかえようとしたとき。

『海野さん』

名前を呼ばれて振り返った。女の子たちが数人。見覚えはあるけど、あまり喋った記憶はない。

『ちょっと、いい?』

普段、よく佐伯くんの周りにいる女の子たちだった。


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