童話にはできないから #4


文化祭当日の舞台裏。まるでコマネズミのようにあくせく働く茶色い頭がうろちょろしていて、少し微笑ましい。労いの言葉をかけてやる。

「あかり。お疲れ」
「瑛くん。お疲れさま」

一言二言、他愛ない会話を交わす。二人揃って裏方に勤しんでる。裏方が忙しいのは準備期間、当日はそれほど忙しくはない。
能天気そうな笑顔を返すボンヤリの顔を見ていたら、それなりに忙しかったこの二週間の放課後の思い出が走馬灯のように通り過ぎていった。クラス用の立て札を盛大に倒して涙目になっていたボンヤリの顔……悪態をつきつつ、破損した立て札を一緒になって作りなおしたこと、ボンヤリがペンキの缶につまづいて転けそうになっていたこと、立て札を飾る紙の花作りはやたらと上手かったこと……二人して王子の衣装で議論になったこと(「……これは無い」「えー? 素敵なのに」「おまえの目は節穴か。こんな紫のフリフリ、絶対無しだろ」「でも、瑛くんに似合いそうだよ?」「無い、ゼッタイ無い。つーか、死んでも着たくない」云々……)、王子用の衣装をボンヤリが俺に当てがって「うん、やっぱり似合うよ」と屈託なく笑い、その現場を発見した女子共が黄色い声を上げて集まってきて、散々な目に遭ったこと…………うん、ところどころ、酷い目にも遭ったけど、まあ、楽しかった……と言えなくもない。それは多分、隣りでボーっとしているこのボンヤリが、いつも隣りにいたからで……。

「考えてみたら、俺さ……こんな風に文化祭に参加するのって3年目にして、初めてかも」

俺の台詞にあかりは、パチパチと瞬きをして寄越す。「そっか。そういえば、そうだったよね」と頷きを返す。それでもう、口が滑った。滑りそうになった。

「なんかさ……こういうお祭り騒ぎっていうのも、なんて言うか、その、せ、青春の……」

上ずった告白に、感情を排した校内放送の冷静な声がかぶさる。

『これより、羽ヶ崎学園、学園演劇を開演いたします』

――な、何を言おうとしてんだ、俺!

危うく恥かしすぎる台詞を吐くところだった……。気を取り直してあかりに声をかける。

「……ほら、裏方は引っ込むぞ」
「うん!」

そんなこんなで、まるで何も気にしてないような、気が付いていないようなあかりの屈託のない声と一緒に袖に引っ込んだ。



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