童話にはできないから #1
――これは悲しいお話だけど、きっと、それだけじゃないんだよ。
そう言った。
「ね、悲しいだけのお話じゃないんだよ」
重い緞帳の陰、舞台から僅かに洩れる薄暗い照明の下、凪いだ海よりも穏やかな瞳をして、あかりは言った。口元に微笑みすら浮かべて。
けれど、その声の響きはどことなく悲しげだった。理由はさっき聞いたから知ってる。もっと早くに聞いていたら、どうにか出来たのかな。そういう話じゃ、ないんだろうな。これは俺たちにはどうしようも出来なかったことなんだし。
そうだとしても、それは胸が痛む話だった。張り裂けてしまうほどじゃないけど、それでも。
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