すう、と穏やかに瞼を開けば、いつもの見慣れた天井が視界に入った。あれ?いつの間に帰ってきたんだろう。確か私は、重たい身体を引きずって病院までいき、それから帰り道で倒れかけて、見ず知らずの男性に担がれて…。

(は…?見ず知らずの男性に担がれて!?)

あまりの出来事に、おもわずガバっとベットから身を起こす。病院でしてもらった注射の成分が効いてきたのか、体調は幾分よくなっているが、激しい動きはやはり頭痛をともなった。
いやいや、そんなことより問題なのはこの状況である。なんでどうして、見ず知らずの人か私の自宅を知ってるの?

慌てふためいて、きょろきょろと周りを見回していると、キッチンのほうから、トントントンとなにやらリズミカルな音が聞こえてきた。誰か、いる…!

きっとその誰かは、ここまで私を送ってきた人に違いないはずだ。一体、何者だろう…。朦朧としていた意識の中で、聞いたことのある声だと思ったんだから、もしかしたら知り合いかもしれない。私が声に聞き覚えのある男性…一体誰だろう?親しいところでいくと、チカ先輩か真田くん?それから、佐助さんは私の住所なんか知るはずもないし。他には、毛利先輩…いやいや流石にそれはないか。あとは…


「伊達、社長…とか?」


思わずその名前を、小さく声に出して呟いていたのには、自分でも驚いた。なんで、どうして、そんな訳ないのに。誰よりもありえないと思うはずの相手なのに、私の脳裏に思い浮かんだのはあの馬鹿社長の顔だった。


「あれ、おきた?」


俯いて考え事をしていたところに急に声を掛けられて、ビクリと肩が跳ねた。慌てて顔を起こしてみると、そこにいたのは…


「さ、佐助さん?」

「はいはい、なーに?」

「あ、の…どうしてここに?」

「配達の途中に、たまたま倒れてる奈々ちゃん見つけてね」


予想外の出来事と、予想外の登場人物に、驚きを隠せないといった私の様子をみて佐助さんは苦笑する。


「佐助さん、だったんですね…」

「あらま、俺様じゃあ不満だった?」

「いっ、いえ、とんでもない…!」

「ぷっ、あはは!そんなに全力で否定しなくても、冗談だってば」


ベットまで歩み寄ってきた佐助さんは私の頭を軽く撫でた。普段から私の頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜるチカ先輩にくらべたら、一回りくらい小さい佐助さんの掌は、なんだかお母さんの手のようにふわりと暖かくて安心した。


「驚いたけど、見つけたのが俺でよかったよ。具合はだいぶいいの?」

「はい、お蔭様で!ありがとうございます。あの…でもなんで自宅の場所わかったんですか?」

「あー、そうそう。奈々ちゃん宛ての荷物、ちょうど持ってたんだよ。で、それの住所見て、荷物と奈々ちゃんをここまで運んで、緊急事態なので遠慮なくお邪魔しちゃいました、ってね」

「そうだったんですか、ご迷惑をお掛けしてすみません」

「いやいや気にしないでね、俺のほうこそ勝手に上がっちゃってごめん。あ、それとキッチンも勝手に使わせてもらっちゃいまして、お粥作ったんだけど…食べれそう?」

「(おかん降臨…!!)はい、喜んでいただきます!」

「ん、了解。いま持って来るからまってて」


病気のときに佐助さんの美味しい手料理を頂けるだなんて案外私はついてるのかもしれない。キッチンへと戻っていく佐助さんの後姿をベットの中から見ながら、病気のときに母が居てくれるようなそんな安心感を覚えてしまうのだ。

その後もたびたび頭に浮かんでくる馬鹿社長の顔をかき消そうと、何度も頭をふるった所為で頭痛に苦しんだなんて事実は、記憶から抹消しておこう。あの人とはもう関わらないって、今度こそ心に決めたんだから。



甘さ控えめ
(頭はボサボサすっぴん眼鏡姿を佐助さんに晒していたことに気がついて絶叫するのは、数分後のお話)




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