じりじり照りつける日差しに耐えながら、朝も早くからスーパー五本槍の前にできている長蛇の列で意気込んでいるのは、奈々と佐助、それに半ば強制参加させられている幸村だ。
休日の早朝から準備も万端に、貫禄のある主婦層に混じって彼らがこんな場所にいるのにはもちろん訳がある。もともと安さが売りのこの店には滅多にない、スーパー五本槍の大安売りの日なのである。普段の安さに加えてさらに大安売りともなれば、近所のおばちゃんはもちろん、遠くから沢山の人が駆けつけているようで、開店前の店の前は既にいつもの何倍もの人で賑わっていた。



「さあ、今日の戦も負けられないよ!真田くん!佐助さん!」


意気込みも十分に握った拳を振り上げるのは奈々で、佐助はそれにうんうんと頷いている。一方幸村は奈々の言っていることの意味がいまいち理解できないようで、きょろきょろと周りを見回してから不思議そうに首を傾げた。


「ここは大安売りタイムバーゲンという名の戦場なんだよ、真田くん。ぼーっとしてるとおばちゃんたちの波に飲み込まれるよ!」

「た、タイムバーゲン?戦場、でござるか?」

「滅多にない大安売りなのよ、戦場以外の何者でもないわ!佐助さんに助っ人頼もうと思ったんだけど…残念ながら今回は同じ獲物を狙うライバルだったの。だから、慣れなくて大変だと思うけど頼むね真田くん!」

「そうそう、真田の旦那は奈々ちゃんのお手伝いね〜。俺様は俺様でお目当てのもの調達しないとなんないからさ」

「そうか、よくわからぬが承知した!精一杯の助力をいたしましょうぞ!」



そうこうしているうちにスーパーの開店時間になったのか、動き出した列がぐんぐん進み、3人は周りの主婦たちに揉まれながら戦場へと飛び込んだ。途中で佐助と離れ、先導する奈々と籠を持った幸村は人の流れにのりながら、とりあえずは冷凍食品コーナーを目指した―――





「よし、おつかれさまでした!」


真田くんに籠を持っていてもらって主婦の人垣の中に飛び込み目当てのものを一通り入手。途中おばちゃん達にもみくちゃにされた真田くんとはぐれそうになったものの何とか無事に合流した。会計を済ませ、ビニール袋につめこんで、ようやくひと段落だ。主婦の皆さんはまだ買い物中なのか、袋詰めコーナーはまだ空いていた。


「任務完了、でござるか?」

「うん!ありがとね、真田くんっ!ほんっとに助かったよー」


目当てのものをこんなに入手できるなんて滅多にないから、さすが真田くんの助力は大きいなぁと感謝しきれない。この先しばらくの幸運を使い果たしてしまったんではないだろうかと心配になるほどに、満足のいく買い物ができた。



「それは良かった。あのように熱気に溢れた場所は久々で、某も燃えたぎったでござる」

「そっかそっか…って、え?久々?」

「幼い頃から某の通う道場が、やはりあのように熱気に溢れているのだ。最近は仕事が忙しいゆえ、なかなか道場のほうに顔が出せなくてな」

「へえ、道場か。なんかいいねそういうの、かっこいい」

「佐助とは幼きころに道場で知り合ってからの長い付き合いなのだ」

「わあ、佐助さんも?なんか以外だな」

「佐助は器用ゆえ、今も洗濯やら掃除を手伝いに道場に出入りしている」

「あはは、それは佐助さんっぽいかも」


今まで疑問に思っていた真田くんと佐助さんの関係が、思わぬところで明らかになってびっくりした反面、なるほどと妙に納得している自分がいて思わず笑みがこぼれた。真田くんと道場っていうのはすごくしっくり来るし、道場なんて以外と思った佐助さんは、いざ話を聞いてみたら掃除洗濯なんて、これまたなんともしっくりくる組み合わせだ。


「なんか、凄く楽しそうだね。真田くんが稽古してるところとか、佐助さんが掃除洗濯してるとこ、ちょっと見てみたいかも」


佐助さんと合流するまでの間にと、道場のいろいろな話を聞いていれば、なんだか凄く楽しそうで、思わずそんな言葉が口をついて出た。それを聞いた真田くんは、おお!なんて大げさにリアクションしてみせると、最高の笑顔で答えをくれた。


「ならば今日この後、道場へ様子を見に行きましょうぞ!某が案内いたしまする」

「え、いいの?」

「構わぬ構わぬ、きっとお館様もお喜びになりまする」

「おやかた、さま?」

「某の師匠にござる」

「ああなるほどね。じゃ、お言葉に甘えていいかな」

「是非是非!では直ぐにでも参りましょうぞ!」

「うん、じゃあ荷物を一度持って帰ってから、また待ち合わせしてもいいかな?」

「承知した!なら某がマンションまで持ちまする」

「いいの?あああ、もう真田くん本当にありがとう」

「なんの、礼には及ぬ」


爽やか笑顔でさらりと男前な言動をやってのける真田くんは、女の子にさぞかしもてるだろうに、彼女がいないなんて勿体ないとつくづく思う。とはいえ、私の中での真田くんは、どちらかと言えば良き友であり、同期同部署3人組の、大好きな仲間というイメージが硬く、異性として意識しようとは思えないのがまた勿体ない限りだ。

そんなこんなで真田くんと楽しくお喋りしているうちに佐助さんも買い物を済ませたようで、パンパンに詰まっているマイバックを両手に幾つもぶら下げて来た。


「おまたせーって、あれ?ごめんね、もしかして結構待ってた?」

「そんなことありませんよ、大丈夫です。それよりも、お目当てのものは無事に手に入りましたか?」

「そりゃあ、もちろん!俺様を誰だとおもってるのさ〜。奈々ちゃんは、上手く買い物できた?」

「はい、真田くんが大活躍だったんですよ」


嬉々として本日の戦利品を掲げれば、佐助さんも嬉しそうに笑ってくれた。ああ、やっぱりこの喜びをわかってくれる人がいるって幸せだなぁ、なんて思わず私も頬笑んでしまう。


「そっか、なら良かった。で、楽しそうになんの話してたの?」

「佐助さんには内緒です。ね、真田くん」

「お、おお…そうでござるな!」

「なになに、内緒話なんて妬けちゃうんだけど」

「大したことじゃありませんよ、そのうち分かりますから今は内緒です」

「大したことじゃないなら教えてくれたっていいじゃないのさ」


わざとらしく拗ねてみせる佐助さんがおかしくて、私と真田くんは思わず笑ってしまった。あとで道場で会った時の、佐助さんの反応もまた楽しみである。




死に物狂いで走りだせ
(大安売りはいつだって戦場ですから)



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