注文し運ばれてきた料理はやはり多すぎで、お腹いっぱいまで食べても手付かずのお皿は沢山あった。

「しかしアンタ良く食うな」

テーブルマナーもそこそこに、全力で料理を大量に飲み込んだ私。彼は少しだけ驚いた風だった。

「貧乏人、ですから!」

ナプキンで口を拭いながらキッと睨み付けるとバカ社長は楽しそうに目を細める。何がそんなに楽しいんだか。私は不愉快なんだけど!

「やっぱりアンタは変な女だ」
「貧乏人ですからねー」
「そう拗ねるなよkitty」

もうこの人私のことキティキティっていい加減ウザい!この西洋かぶれめ!日本語を使えよ日本語を!

「もう飯はいいのか?」
「……ハイ」

まだ残ってる沢山の高級料理は勿体ないけど、これ以上食べたら胃袋が破裂してしまう。

「じゃあ行くか」
「………ハイ」

うう、勿体ない!後ろ髪引かれる思いで私はテーブルを後にした。やっぱり高級ホテルの雰囲気には慣れなくて、不本意ながらもまたヒヨコのようにバカ社長の背中について歩く。出口に向かう途中、食事の最中に私達の席のお世話をしてくれていた従業員さんとすれ違った。

「…あの、」

小さく呼び止めるとその人は振り向いて、何かございましたか?と丁寧な口調で返してくれる。私はその人に小さく頭を下げた。

「凄く美味しかったんですけど、いっぱい残しちゃって。ごめんなさい」

この人だって注文取ったり大量のお皿運んだりしてくれたのに結局残しちゃって本当にごめんなさい。目一杯懺悔してから頭を上げると、従業員のその人は一瞬目を見張って、それから

「シェフに伝えておきます」

恭しく頭を下げた。顔を上げたその人が優しく笑っているのを確認して、私は出口の方角に向き直った。そして視線の先、壁に背を預けてこちらを見ているバカ社長を発見し、慌てて駆け寄った。

「…………」
「………なんですか?」

ジッと私を見下ろすバカ社長の視線が不愉快で睨み返してみる。バカ社長は私の質問には答えずに背を向けて歩き出した。

「…本当に…変な女だ」

背中を向けたままバカ社長がしみじみと呟いた。やっぱり心底失礼な男だと思った。






ホテルを出ると外はもう真っ暗で、エントランスの上品な明かりが益々高級な雰囲気を醸し出していた。

「アンタ家はどこだ?」

送ってやる、と高飛車に言い放ったバカ社長。でも私は有り難いなんて思わない。

「結構です」
「あ?」
「自分で帰れますから」

そこまでしてもらう義理はないし。ってゆーかそもそも食事をご馳走してもらった事自体がおかしいんだ。私はただの一般庶民で、この人は大会社の社長なんだから。

「じゃあ私、帰りますので」
「待て、送るっつってんだろ」
「結構です」
「なんでだ」

なんでだ…って、そんなの逆にこっちが聞きたいよ。

「送ってもらう理由がありませんから」
「理由?ンなモン別にいらねえだろ」
「私には要るんですよ!とにかく私は自分で帰りますからお気遣いなく!」
「だからなんで」
「政宗さん?」

何でだと再び理由を聞こうとしたらしいバカ社長の言葉は、艶っぽい女の声に遮られた。その声に釣られて振り向いて、絶句した。

「いらしてたのね」

声くらいかけてくださればいいのに、と柔らかく笑うのは芸能人かモデルかと思うくらいに綺麗な女だったのだ。笑い方が上品だ。髪も綺麗に巻かれてるし服もきっとブランド物だろうし、この人絶対金持ちのお嬢様だ。私とは住んでる世界が違う、生まれも育ちも何から何まで違う。そんな感じ。

「Ah…気付かなかった」
「そう」

こうして並んでいるのを見るとよく分かるけど、この性悪バカ社長もこのゴージャスな女と同じ世界の人間なんだ。このゴージャス女の横に立っていても違和感がない。むしろ似合ってる。

「あら、こちらは?」

ゴージャス女の目が私に向けられる。値踏みをするかのように、舐めるように全身を見られ、不快感と居心地の悪さを感じた。すみませんねー、なんか小汚いスーツでこんな所に来ちゃって。靴も安物だし髪の毛も仕事の邪魔にならないようにテキトーに結んであるだけだし。

「Ah…こいつは…」
「取引先の一社員です」

お世話になっております!と勢いで頭を下げた。ゴージャス女は「そう」と満足そうに笑ってバカ社長の腕に自分の腕を絡める。バカ社長が眉間にシワを寄せた。

「おい、気安く俺に触…

バカ社長がゴージャス女の手を振り払おうとしたのと同時

「伊達社長」

もしかしてこれが初めてかもしれない。私は固有名詞でバカ社長を呼んだ。

「今日は本当にありがとうございました。美味しかったです」
「あ?……ああ」
「それでは私はこれで失礼いたします」

ペコッと頭を下げて方角を確認する。最寄駅は…あっちか。よし、歩ける距離だ。

「おい、ちょっと待」
「政宗さん、お父様が来ているの。久しぶりにお顔を見せてあげてくれない?」

何か言いたげなバカ社長はゴージャス女に腕を引かれてその場に立ち止まったらしい。

「………っ、分かった」

背後から聞こえてきたバカ社長の声を確認して一安心。ここで追い掛けて来られてゴージャス女と揉めたりしたらそれこそ面倒臭くなる。下手したら会社での立場に支障が出るかもしれないし。まあとにかくこれ以上バカ社長とは関わらない方がいいよね。

金持ちは金持ち同士でつるんでるのが1番いいでしょーが。貧乏人の私は貧乏人らしく徒歩と電車で帰りますよーっと。




関連性皆無
(今日のことは、夢でも見てたんだと思って忘れよう。とりあえずお茶漬けが食べたい)





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