短編 | ナノ
ご機嫌はいかがかしら?
「あれは……」
買い物をしていると、キョロキョロしている女の子を見つけた。
「ご機嫌よう、名前ちゃん」
『あ! 玲央さん! 買い物ですか?』
近づいて声をかけると、やはり名前ちゃんだった。
「ええ。ちょうど今終わったところ。名前ちゃんは?」
『あるカフェに行きたいんですけど、迷っちゃって……』
恥ずかしそうに笑った。
「迷子ね……そういえばお友達とは一緒じゃないの?」
『今日は一人です。あ、友達がいないとかじゃないですよ!? たまたま用事が出来たらしくて……でも予約いれちゃったし、行かないのももったいないから』
言い終わった後、顔を真っ赤にさせていた。
「予約をいれたってことは、二人ぶんよね?」
『はい』
「じゃあ私も一緒にいいかしら?」
そう言うと、パッと花が咲いたような明るい笑顔になった。
『ぜひ!』
「いい雰囲気ね」
無事にカフェを見つけ、店内に入った。席は椅子の背が高くなっていて、個室のような感じになっている。
『楽しみー』
先にきたコーヒーを飲みながら言った。
「失礼します」
名前ちゃんと学校のことやら休日のことを話していると、ウェイトレスがお皿を二つ運んできた。
『うわぁ……美味しそう!』
名前ちゃんはショートケーキ、私はモンブランを頼んでいた。
「ほんとね、名前ちゃんと会えてよかったわ」
えへへと、可愛らしく笑ってからフォークを手に取り、ケーキを一口食べた。
『んー! 美味しい!』
幸せそうな顔をしているのを見て、なんだか嬉しくなった。
「ん、このモンブランも美味しいわ……どうしたの?」
フォークを口にいれたまま固まっている名前ちゃんに声をかけた。
『え? あ、いや、なんでもないです!』
そう言ってコーヒーカップを取った。そのとき、ちらっと視線がモンブランへと移った。そういうことかと納得し、モンブランを一口大に切って名前ちゃんの前に出した。
「はい、あーん」
『……いいんですか?』
喜びを隠しきれていない顔で言った。
「いいわよ」
『ありがとうございます!』
そう言ってパクリとモンブランを食べた。両手で頬を触りながら幸せそうな声を出す。
「ふふ、しちゃったわね。間接キス」
『へ……?』
みるみるうちに顔が真っ赤に染まっていく。
『ああああ! その、あの……』
慌てている名前ちゃんに顔を近づけた。
『え、っと? なんでしょう……』
間を合わせずらいのか、下を向いている。
「私、名前とならこれ以上してもいいと思ってるの」
『これ以上!?』
目線を上げた名前ちゃんと目が合う。
「そう、これ以上。嫌かしら?」
『……いや……じゃない、です』
「じゃあ今度お茶するときは、私の家かしらね。美味しいケーキも焼いてあげる」
そう言うと、こくりと頷いた。
私も狡いわね。このカフェにくること、一緒にくるはずだった子が来れなくなること、名前ちゃんが私を好きなことは全部知っていた。
ご機嫌はいかがかしら?
笑顔の裏にいるのは欲張りな私。
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