短編 | ナノ


木漏れ日のしたで



ある暖かい日のお昼に、私は近くの公園に来て、待ち合わせのベンチに座り本を読んでいた。

「名前さん」

ふわりと吹いてきた風と一緒に、透明感のある声が私の名前を呼んだ。右を見れば、声にも見た目にもぴったりな爽やかな格好をしているテツがいた。

『おはよう、テツ』

「おはようございます」

そう言って微笑み、「失礼します」と声をかけてから私の右隣に座った。その瞬間いつもの香りがして、なんだか心が落ち着く。

「何を読んでいたんですか?」

『七色の闇っていう恋愛小説』

つけていたブックカバーを外して表紙を見せた。全面真っ黒に染められていて、その上にぽつぽつと七色の泡と、透明の泡が一つが描かれている。

「綺麗ですね。けど、名前さんが恋愛小説なんて珍しいですね」

『うん、表紙に惹かれて立ち読みしてたら内容も結構好きだったの。なんか、私たちみたいな話だった』

「僕たち……ですか?」

キョトンとした顔をする。

『細かいところは違うんだけど、大まかな話の流れ? みたいなのが似てると思ったの』

「気になりますね」

『読み終わったら貸してあげる』

「ありがとうございます」

『どういたしまして』

ブックカバーを付け直して鞄の中にしまっていると、テツが呟いた。

「ここは木陰なんですね。一年通して涼しくてよさそうです」

『そっか、テツとここ来るのは初めてだったっけ。私ここお気に入りなんだよね。中学生のとき、さつきと来たりしてた』

「そうなんですか。僕のお気に入りにもなりそうです。この木漏れ日の感じも良いですね」

そう言って地面にあたる光に目を向けた。そのとき、公園に設置されている時計が鐘の音を出した。

「11時ですね……そろそろ行きますか?」

テツの質問に、少しだけ考えてから答えた。

『もうちょっと、ここで話してたいかな』

「奇遇ですね、僕もそう思ってました」

お互い顔を見合わせ、クスッと笑う。その姿を木漏れ日が暖かく照らしていた。





木漏れ日のしたで
漏れる光はスポットライト


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