短編 | ナノ


神様至上主義


今日の授業が全て終わり、マネージャーとして所属しているバスケ部の活動場所、体育館に来ていた。

「名前ちゃん!」

『わっ、コタ先輩!?』

後ろから声をかけられ、思わず飛び跳ねてしまった。うまくバランスが取れずによろめくと、ほんのりと爽やかな甘い香りのする胸に支えられた。

「全く、転んで怪我したらどうするの! 名前ちゃん大丈夫?」

『はい。ありがとうございます、玲央先輩』

「いいのよ。それより征ちゃんは? 一緒じゃないなんて珍しいわね」

『校長先生のところに行くって言ってました』

それを聞いたときは何かしたのかと驚いたが、赤司君に限ってそんなことはないと思い直した。後で理由を聞いてみよう。

「そういや赤司はなんで名字といつも一緒なんだ?」

根武谷先輩に聞かれて考えてみたが、自分では分からなかった。

『何ででしょうね?』

そう言うと玲央先輩が苦笑した。

「鈍感ね」

「ほんとそうだよね! 赤司はーーいだっ! 何すんのさレオ姉!」

「アンタは黙ってなさい!」

ぴしゃりと言われ、コタ先輩は頬を膨らませた。子供っぽい仕草に思わず笑うと、恨みがましそうに私を見た。

「もー、なに笑ってるの?」

『やっぱりコタ先輩好きだなーと思って』

「ほう」

振り向くと、赤司君が腕を組んで立っていた。笑顔を浮かべているが、後ろから黒い何かが出ているように見える。

「「あ」」

玲央先輩とコタ先輩が顔を引きつらせながら呟いた。根武谷先輩は私と同じように、よく分からないといった表情だ。

「名前」

『なに? あ、校長先生とは何話してたの?』

「少し相談をしていただけだよ。それより……」

赤司君が一歩私に近づいた。自然と見下ろされる形になる。いつもは何とも思わないのに、今は押し潰されそうなくらい重い。

「さっきの言葉はどういうことだ?」

『さっき?』

特に赤司君の気に障るような言葉を言った覚えはなかった。必死に考えていると、ため息が聞こえた。

「君はこれだから……」

そう言うと、組んでいた腕を解いて私の手を掴んだ。

『赤司君?』

「先に準備を始めてくれ」

三人に声をかけてから歩き出した。

『赤司君、私も準備しないと……』

「君はいい。話したいことがあるんだ」

前を向いたまま言った。よく分からないが、手を離してくれるようには見えなかったので、とりあえず付いて行くことにした。





「名前は小太郎が好きなのか?」

舞台裏に着くと突然聞かれた。

『えっ!? 好きじゃないよ! あ、いや、好きだけど……その、友達というか先輩としてというか……』

言ってるうちに、赤司君がさっき聞いた質問の答えが分かった。

『もしかして、私がコタ先輩のこと好きだなーって言ったことに怒ってたりする?』

「やっと分かったのか」

『でも、何でそんなことで怒ってるの?』

これがいけなかった。赤司君が鋭い眼差しで私の目を見た。見たことはあるが、実際に自分に向けられたのは初めてだ。思わず足が竦む。

「そんなこと?」

赤司君は少しずつ私に近づいてくる。それに合わせて後ろに下がっていると壁に当たった。しかしそれでも赤司君は止まらない。

『赤司、君……ちょっと、近すぎると……』

顔を下に向けようとすると、顎を持ち上げられた。威圧的な目と視線が絡むと、もう逸らすことが出来なかった。すると、赤司君が口角を上げる。

「分かっていないようだから、答えを教えてあげよう」

そう言うと、ゆっくりと私の唇にキスをした。

『赤司く……んっ……!?』

生温いものが中に入ってきて、思わず顔をしかめる。離してもらおうと赤司君の胸を押す。しかし、またあの視線が絡んで手の力が抜けた。

『あっ……んんっ、赤司……君……ダメ……』

いやらしい音が鳴り、腰が抜けそうになる。それを察してか、赤司君が私の腰に腕を回した。そのせいで距離が縮まって余計恥ずかしくなる。

『はぁ……赤司君、何で……』

やっと唇が離れた。しかし距離はそのままだった。

「僕は君が好きだ」

私の耳元で囁いた。甘い声に思わず息を飲む。

『私も……だよ』

「それじゃあ分からないな」

悪戯っぽく笑った。

『赤司君のことが、好きです』

「知ってた……なんて言ったら怒るかい?」

『え?』

「僕は君を一目見たときから好きだった。だからマネージャーに誘った。バスケもよく分かっていないようだったし、一から教えようと思ってけど、たった数日で何もかも覚えてきた。さすがにあれは驚いたよ。名前は僕の思った以上に素晴らしい女性だった」

『そんな……』

「けど、君はとても鈍感だ。僕の気持ちには全く気づいてなかった。いつも一緒にいたのにね」

赤司君が上品に笑った。

「君が僕に好意を寄せてくれてると気づいたのはつい最近だ。やっと届いたのかなと思ったよ。……こんな形で気持ちを伝えるとは思わなかったけどね。本当はもうすこしマシな告白をしたかったんだが、あんな言葉を聞いたらね」

『ごめん……』

顔を見合わせ、笑った。

「赤司ー! 準備出来たよー!」

コタ先輩の明るい声が聞こえた。

「行こうか」

『うん』

歩き出したかと思うと、「あ」と呟き私を振り返ってから言った。

「続きは部活が終わったら、ね?」

妖しく微笑み舞台裏を出て行った。顔が熱い。

ああ、神様。本当に感謝してもしきれない。赤司君に出会えたこと、それだけでもう十分と言っていいほど幸せです。

赤司君に言ったら信じてもらえるだろうか。夢の中で、神様からこの学校に来るよう告げられたなんて言ったら。






神様至上主義
あなたのお陰で私の人生は素晴らしいものになりました


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