小さな幸せから | ナノ
 狼狽

幸村に相談して良かった。

恥ずかしかったとはいえ、やはり柳は私のことをちゃんと分かってくれている。

改めて知ってとても嬉しかった。

日に日に関わりを持つたび私は、柳を気にかけることが増えてきているように思う。

*****

相談をした日から数日が経ったある日のこと。

靴箱に一枚の紙があった。

差出人は意外にも幸村だった。

--------------
苗字さんへ
今度は俺から話があるんだ。
昼休みに弁当を持って屋上ね。
幸村より
--------------

柳先輩も一緒がいいな……多分、同じ面子だろうけど。

そんなことを一瞬考え、教室へと向かった。


昼休み、屋上へ行くと思った通りあの三人がいた。
幸村が奥で手を振っている。
駆け足で傍により、挨拶をする。

「こんにちは。遅れてすみません」

「こんにちは。そんなに待ってないから大丈夫。さあ、食べよう」

みんなで手を合わせて、頂きますと言った。
誰かと食べるのは久しぶりで新鮮な感じがした。

それから、ニ十分後くらいに幸村が食べ終えて話をし始めた。

「食べながら聞いてね」

口に含みながら頷いた。

何故か嫌な予感がする。

「単刀直入に言うけど、テニス部のマネージャーをやってほしい」

「んぐっ......!?」

驚きのあまり、含んでいたものが喉に詰まり慌ててお茶を飲んだ。

「ケホッ...ケホッ...ふぅ」

「大丈夫か?」

柳が背中をさすってくれた。

「ありがとうございます。話に戻りますがマネージャーですか……」

「そう。選択肢は、YES or はい 」

それ、拒否権ないじゃないか。

決して、嫌ではないが大変そうだと思った。

「だって、君って料理上手だし、他の女子みたいに五月蠅くないし、しっかりしてるし」

料理上手なのは関係ないと思うが誘われるのは悪い気はしない。
しかし、ちゃんと出来るかが心配で悩んだ。

「私なんかで務まりますか?」

「君にしかできないと思うよ。一応、募集したけどミーハーばっかで使い物にならなくてね」

使い物って…何だか怖いです……幸村先輩。
まあ、部長ということだけあって、それだけテニスに関しては真剣だということなのかな?

「やってみたらどうだ?始めの内は俺もサポートしよう」

柳が頭にぽんっと手を乗せた。嫌ではないが癖なのか?

それは兎も角、マネージャーになれば今まで以上に柳と関わりを持てるかもしれない。
それに、折角誘ってもらっているのだから。

「では、させていただきます」

「ふふ、苗字さんならそう言ってくれると思ったよ。じゃあ、今日の放課後からね」

「はい」

*****

そして、部活の時間になり、ドキドキしながらテニスコートに向かった。

「...あれ?」

幸村たちの姿が見えずキョロキョロしていると真田が部室と思われる場所に入っていくのが見えた。慌ててドアに駆け寄りノックすると知らない人の声が聞こえた。

「入っていいぜぃ」

その言葉を聞き、一呼吸置いてドアを開けると思わぬ光景が広がっていた。

「えっ...」

ほとんどの人が半裸だった。
ズボンを穿いていたが、そんな場面に出くわすと思っていない私は動揺しまくった。

「あ、その...すみません!」

ドアを勢いよく閉め、その場に座り込んだ。

入っていいなんて言ったの誰!全然、良くないじゃないか。

とりあえず、そこにいると邪魔になると思い、近くの木陰でテニスコートを見つめていると幸村がやってきた。

「さっきはごめん。驚かせちゃったね」

「い、いえ、大丈夫です」

「みんなにはまだ、言ってなかったから。あ、でも、さっきマネになる子とは言っておいたよ」

それに、笑顔についてもね。と幸村がウイングしながら言った。

「そうなんですか。ありがとうございます」

「まあ、一応はレギュラーには自己紹介しようか」

それから幸村についていき、自己紹介をした。メモ帳に特徴と名前を書き込んでいると、頭の上に手が置かれた。こんなことをするのはあの人しかいない。

「メモしているなんて偉いな」

柳先輩だ。

大きくて優しい手。私はいつしか撫でられるのが好きになってしまっていた。

「ありがとうございます」

柳は数回頭を撫でると手をおろした。
離れた後も撫でられたとこが熱を持っている気がした。

「じゃあ、蓮二は苗字さんにマネの指導よろしくね」

幸村がそう言うと、ゾロゾロと柳以外のレギュラーは部室を出た。

「では、早速、説明するぞ」

「はい、お願いします」

タオルの置いてある場所やドリンクの作り方など、色々教わった。

「……そろそろ、休憩の時間だな…ドリンクを部員に配ってくれるか?」

「わかりました」

ほとんどが初対面の相手なので、ドキドキしながら向かった。

「あ、あの…」

「アンタが新しいマネージャー…本当に俺ら目当てじゃねぇの?」

こいつ自意識過剰?と思った瞬間、背後から声がかかった。

「俺が選んだと分かっていて疑うなんて、いい度胸だね」

後ろを振り返ると幸村が立っていた。全身から凄いオーラが伝わってくる。

「ゆ、幸村部長!…す、すいません!」

慌てて謝る彼、先程まで運動していたのもあるだろうが、汗がダラダラと出ていた。

「あれだけ、ミーハーがいるのだから仕方ないですよ」

「苗字さん、ごめんね。ほら、赤也も謝って」

「疑って…悪かったな」

「気にしないでください。それより、喉渇いてますよね。はい」

サンキューと言って受け取るとごくごくと嬉しそうに飲んでいた。

「ぷはーっ、美味いな!ってか敬語やめろよ。同級生だろ?」

「え…あ、うん」

頷くと、へらっと笑ってどこかに行った。明るそうな人だ。


それから挨拶をしながらドリンクを配り回った。

最後にガムを噛んでいる赤髪の人とハ…えーっと、髪がない人?…確か丸井先輩と桑原先輩。

その二人の元へ行き、ドリンクを渡した。

「あ…はい。どうぞ」

「ありがとうな。あ、さっきの自己紹介で言いそびれたんだけど、ノックされたときに入っていいって言ったの俺。すまねぇ」

笑いながら言う丸井。きっと、平部員だと勘違いしてたのだろう。

「かまいませんよ。私こそすみません」

「何でお前が謝んだよぃ?」

「確かに苗字は何もしてないよな」

丸井先輩に続いてハ…桑原先輩が首を傾げた。

「え、それは、その…皆さんの着替え…見てしまって……」

最後の方は口を濁しながら言うと丸井が笑った。

「はは!でもよ、前のマネージャーとか普通に着替え中、部室いたりしてたけど」

「そうなんですか…あ、」

幸村の集合という声が響いてきた。

「美味かったぜぃ」

「ありがとうな」

手元に容器を渡して、二人は駆け足で幸村の元へ行った。


今さっき、分かったことがある。桑原先輩の初めの印象が強すぎて名前を呼ぶ前にハ…となってしまう。
まあ、どうでもいいが。

それからタオルを洗濯したり、テニスのルールからスコアの付け方まで、色々教えてもらった。

流石は中学で全国二連覇、三年目は準優勝した代の部員だけあって、練習風景もすごかった。
この人たちのマネージャーを頼まれたことに誇りを感じた。

そして、それなりの覚悟も必要だという事を感じさせられた。

(苗字さんやっていけそう?)
(とても熱心にやってくれている。精市の目に狂いはないな)
(ふふ…蓮二、嬉しい?)
(何がだ?)
(とぼけちゃってー)

*****
あとがき
このシリーズを書くのが久々すぎて、行を開ける間隔…感覚?を忘れてしまいました(笑)
自分で言うのもなんですが、間隔と感覚…上手いこと合いましたねw
というか自分で言っといて吃驚した。
前サイトにて記載

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