小さな幸せから | ナノ
 羞恥

図書室で会うと、挨拶をするようになった。

あなたを見れるだけで幸せなのに、声も聞けるなんて毎日が今までより輝いた。

今日も言葉を交わす。

「こんにちは。苗字」

「こんにちは」

この為に学校に来ていると言っても過言ではない。

*****

柳と話すようになってから、あることを意識するようになった。

少し前に話は遡るが、私は中二の頃から一人でいた。柳さえ、毎日見れれば幸せだったので気にしていなかった。しかし、あるとき二人の女子に声をかけられた。

「苗字さんっていつも一人よね?」

「それなら、私たちといようよ」

断るのも何なので頷いておいた。
それから数ヶ月の間、移動教室や昼休みなどのときは、私のとこへ来てくれた。正直のところ、昼休みは図書室へ行きたかったが、彼女らに悪いと思って言わなかった。
だが、それも段々と回数が減り気付けばまた一人となっていた。

そして、ある日の放課後、忘れ物を取りに教室に入ろうとしたときだった。

「そういえば、最近、苗字さんと話してないねー」

立ち聞きするつもりはなかったのに、足を止めてしまった。

「けど、笑わないし一緒にいてもつまんないじゃん」

「だよねー。折角、誘ったんだから少しは笑えっつーの!」

「確かに!まあ、なんなら1人でもいいんじゃない?」

「「アハハハハ!」」

笑い声が教室に響いた。

今、そこへ入ってはいけない。そんな気がしたので、私は踵を返して玄関へ向かった。
また一人になっても、悲しくも寂しくも何ともなかった。

話を戻すが、笑わないという理由ですてられるのは構わない。だが、それがあの人となれば別。だから、最近は柳といるときは笑顔で居続けようと意識している。
でも、笑っているように見えないのが現実だった。

そして、私は考えた。どうすれば笑っているように見えるのか。
ふと、天使のような微笑みをする人が脳裏をよぎった。
幸村精市だ。
そうとなれば、明日の昼休みに相談しに行こう。きっと屋上か教室にいるだろう。何か持って行った方がいいだろうと思い、クッキーを焼いた。定番過ぎるな、と苦笑した。

翌日の昼休み、早急に昼食を済ませて屋上に向かうと、前と同じ面子でご飯を食べていた。改めて見ると、並々ならぬ威圧感で、前とは違う緊張を感じた。

「こんにちは」

お辞儀をして挨拶をすると、柳が手招きをした。

「こちらに座るといい」

柳の隣に腰を下ろすと目の前には幸村がいた。

「苗字が来るなんて珍しいな」

「幸村先輩に用がありまして」

幸村を見つめると、キョトンとした顔をしていた。
可愛いな...じゃなくて

「ふふ、俺に何の用かな?」

「先輩の天使のような笑顔に、どうすればなれますか?」

......

沈黙が続く。私、変なこと言った?
と思ったのも束の間。

「...ははは!君、おもしろいね」

何故かとても笑われ、私はかなり困惑した。

「いきなりどうしたんだ?」

柳に聞かれ、説明するか迷った。
本当のことを言ったら、私が柳を見て幸せになっていることがバレてしまう。
そこで、中二の時の話や嘘の思いを混ぜながら、笑っていることをわかってもらいたいと話した。

「なるほどねー」

「鏡を見て笑う練習をしても、自分でもそう見えません」

これは実話である。
真剣に笑顔を作ろうと頑張ったが無理だった。

「俺は毎日が楽しい。君は?」

「楽しいです。幸せです」

しまった...幸せなんて言ったら変にきまっているじゃないか。

「幸せ?」

案の定、聞かれた。しかも柳に。

「何となく...そう思います」

「俺も幸せだから自然に笑顔になる。でも、無理に笑顔になろうと思わなくていいんじゃない?」

優しいその瞳は、何かを諭すようであった。

「どうしてですか?」

「君なりの笑顔をわかってくれる人もいるんだから」

そう言って私の頬に手を添えた。

「私なりの...笑顔...」

「柳ならわかるよね?」

「ああ。笑顔で居続けようと頑張っていることもな」

「...えっ!?」

恥ずかしくなって俯いた。穴ががあったら入りたい。いや、今すぐにでもそこから逃げ出したいくらい恥ずかしい。何で気付かれているのだろう?

「新しいデータがとれたな」

「データ?」

顔を上げると、柳と目があった。すると、カアーッと顔が熱を帯びた。
ふいっと顔を逸らすと、柳の手が頬に触れた。

「少しだが、顔は赤らめるのだな」

やはり、赤くなっていたらしく、私は失礼しますと言って慌てて立ち上がって去ろうとしたときだった。

「苗字さん」

「...?」

首を傾げると幸村が紙袋に指をさして、「忘れ物」と言った。クッキーを持ってきていたことにすっかり忘れていたらしい。

「相談に乗ってくれたお礼です。ありがとうございました」

紙袋を幸村に差し出して、その場から逃げるようにして去った。

(わあ、クッキーだよ)
(色んな種類があるな)
(2人ともいる?)
(そうだな…少し頂こうか)
(本当か?有り難い)
(ってか、真田さぁ…空気だったね。喋ってないし)
(…………)

*****
あとがき
やはり長ったらしくなっている!まぁ、いっか。諦めるよ、もう。ってか、真田...最後以外喋ってないね。ごめんね。マジ空気だったけど許して!だって話すことないんだもん。仕方ないよ。逆に、幸村は結構話してたね。神の子と皇帝の差か...!いや、話の流れです。色々とすみませんでした!
前サイトにて記載
(20121224)文章訂正

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